現地における第四胃変位の発生実態と対応策

                          北見地区農業共済組合   獣医師         船越    

                          道立北見農業試験場    主任専門技術員  田中義春             

 

  分娩前後の疾病は増える傾向にあり、酪農経営にとって治療コスト、乳量損失、陶汰など、経済的に大きな損失である。その中で第四胃変位は最近の多頭化やフリーストールの普及によって、原因や対応策が従来と大きく変ってきた。そこで、第四胃変位について飼養管理の分野を専門技術員から、治療の分野を獣医師から左方変位と右方変位に分けて現場で分析検討したのでまとめてみた。

 

  飼養管理からみた第四胃変位の実態

1)  第四胃変位牛の泌乳曲線は

  ここ数年、分娩後の乳量は立ち上がりが早く、乾乳から分娩へスムーズに移行した牛は最初から最高乳量に達するという。図1は分娩後に疾病がまったくない(1年間カルテない)牛を健康牛として、泌乳曲線を示した。健康牛は分娩後数日でピークに達しているが、第四胃変位牛は極端に低く、経過日数60日前後でピークを向かえている。

  我々は泌乳曲線というと後者の線を思い浮かべるが、疾病牛を含めた数多くの乳牛の平均曲線である。しかし、分娩前後にトラブルがない健康な牛は食い込みも良く、早く乳量が立ち上がり最大になることが分かった。従来に比べ遺伝的改良もあって分娩後すみやかに飼料摂取量が増え、乳量も急激に多くなってきた。

  乾物摂取量は分娩が近くなると低下し分娩後に回復するが、その程度に牛個体間で差が生じている。健康牛は疾病牛に比べて落ち込みが少なく、分娩後の食欲がおう盛で、搾乳牛群へ移動しても問題がない。逆に、第四胃変位が発生すると日乳量が激減、農業者にとっては手間がかかり精神的・肉体的にもマイナスである。 



2) 乳熱と第四胃変位の関係は

  分娩後における疾病の多くは乳熱で代表されるような低カルシウム(Ca)血症があり、第四胃変位の原因にもなっている(後半で説明)。図2は乳熱と関連する低Ca血症、産褥熱、第四胃変位および後産停滞の関係を示している。相関は高く乳熱を完全に予防している酪農家と、経産牛の3割以上も発生しているところがあった。

  これは個々の出荷乳量や個体乳量、分娩間隔と関係がなく、むしろ酪農家における乾乳期間の管理によるところが大きい。乳熱が完治したようにみえてもそれだけで終わらず、多くは次への疾病につながっていくことがわかる。乾乳から分娩にかけては技術情報が豊富で、多くの酪農家が前期と後期に分けて栄養と管理を実践して成果を上げている。

  乾乳後期のミネラルについて、ひとつは分娩3週間前から給与する飼料の「Na,K,Ca,Mg」を極端に減らし、99%Caである骨から泌乳開始と同時に乳腺へ動員する方法。もうひとつは飼料中のミネラルが有する電位差を利用して、「Cl,S, P」の陰イオンを添加するDCADの方法がある。

  現場では両方試みられているが、農業者にとって前者の方が分かりやすく成果も表れている。酪農家によっては乾乳後期にCaとKを下げ、分娩時のCa補給でほぼ完全に乳熱と関連疾病を抑えている。つまり、乾乳から分娩までの管理を徹底することで乳熱が予防でき、第四胃変位や後産停滞などの連結する疾病も防ぐことができる。

 

 

 

 


 

 

 

 



3)  分娩後の発生日数と順位は

  疾病は牛の体力を弱めるために、一つの疾病がきっかけになり次々に発展するケースがほとんどである。表1は一年間に異なる疾病が複数ある牛を抽出し、分娩後診療が行われた順位を示したものである。

  乳熱は82頭中、初回に発生する割合が79頭96%で、周産期病のほとんどはこの疾病からスタートしている。しかし、第四胃変位や食滞は初回が91頭中45頭であるものの2回目以降の診療が51%であった。繁殖障害などの生殖器病や肢蹄病は、ほとんど2回目3回目に診療が行われている。

  表2は第四胃変位を診療した174頭における分娩後の発生日数を示したものである。分娩後平均9.4日で15日以内の割合が84%を占めており、多くは出産してから数日間に起きている。泌乳中期に発生する牛は運動器病など併発し、急激な体調不良など体に異常を示す時であった。

  このことから、まず乳熱が発生してから第四胃変位、ケトーシス、そして繁殖障害や肢蹄病に発展する。疾病は単独で発生するのではなく複雑に絡み合って、ほぼ順位も決まっていると推測できた。つまり、どこかの時点で疾病連鎖の遮断が望まれ、分娩時の乾乳から分娩の管理を徹底して乳熱を防ぐことを考えるべきだ。

 

                                          表1に変更願います。


                               表2に変更願います。

 

 


 


4)  乳成分から疾病の発生を

  第四胃変位に極めて関連が高い分娩後の疾病について、乳成分から飼料の食い込みについて考えてみた。分娩後、疾病が多発している酪農家群10戸618頭は少発酪農家群9戸1059頭に比べ、分娩100日以内の乳脂率が0.25%、乳タンパク質率が0.04%ほど低かった。

  図3は分娩後に疾病がまったくない牛2577頭(年間カルテがし)を健康牛、乳熱発生牛426頭の乳脂率を示した。乳熱に罹った牛は分娩後4.6%まで高くなり、その後3.5%に低下していた。同様に、乳タンパク質の推移をみても、分娩後高めに推移していたが50〜60日に2.8%まで低下している。

  このことから、乳熱を含めて分娩後数日に発生する疾病は分娩後の飼料、特に粗飼料の食い込みが十分でなく乾物摂取量が減少する。結果として、体脂肪は大量に動員され乳脂率が極端に高くなり、ボデイコンデイションが急激に低下する。

  体脂肪をエネルギーに変換すると、大量の中性脂肪が肝臓に蓄積し肝臓機能が低下する。結果として、糖を合成する力が極端に弱まり、乳糖率は乳期全体に影響すると推測できた(図4)。乳熱に罹ると粗飼料を中心に乾物摂取量が低くなり、肝機能を低下させ第四胃変位や乳房炎など他の疾病へつながる可能性が高い。

  なお、疾病発生時におけるその乳期の305日乳量を調べてみた。乳熱発生牛206頭は9510kg、肢蹄病などの運動器病は438頭9572kgで年間を通してカルテがなかった健康牛の1281頭9139kgよりも高乳量の牛が多かった。一方、消化器病は322頭8875kg、産褥熱や難産の牛146頭8861kgは比較的乳量が出ない牛で発生する傾向にあった。乳熱や運動器病は高能力牛に多く、管理を徹底することで、もっと乳量が増えると予測された。

                      図3に変更願います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


                       図4に変更願います。

 

 

 

 

 

5)  分娩後の疾病は繁殖にも

分娩後の疾病は子宮及び卵巣機能の回復を遅らすため受胎率が低下、その産次の分娩間隔が長くなると考えた。そこで、年間一回もカルテがなかった牛を正常牛、分娩2ヶ月以内に発生した乳房炎の牛を乳房炎牛、それ以外の疾病を他疾病牛に分けて、発生年における分娩間隔との関係を表3にまとめてみた。

分娩後、健康牛に比べ乳房炎が発生すると27日、その他の疾病牛が36日延びていることが確認できた。また、表4で疾病別にみると、影響が異なり子宮脱や子宮捻転をおこすと分娩間隔が500日を越えていた。疾病の重症度ではなく、治療までの期間が分娩間隔を長期化する可能性が高い

第四胃変位は左方変位が467日で、右方変位の423日より44日長い傾向であった(なぜ左方変位が長いかは後半で説明)。このことから、分娩後の疾病を少なくすることは、次期の授精受胎にも好影響を示すことが分かった。

  疾病が発生すると乳量低下、分娩間隔の長期化だけでなく、やむなく陶汰することも少なくない。疾病別に前産から今産にかけて1年間における陶汰率を調べてみたが、カルテが1年間なかった健康牛1021頭の陶汰率は26%で、ケトーシス47頭34%、乳熱167頭36%と高かった。第四胃変位は右方変位27頭左方変位60頭、陶汰率が双方とも22%で低かった。


 

 



                                             

 



  治療からみた第四胃変位の実態

1)  第四胃変位の発生頭数の推移

北見地区農業共済組合家畜診療所は、1市4町(北見市、留辺蘂町、置戸町、訓子府町、端野町)を診療区域としている。農家戸数および成牛(13ヶ月以上)の共済加入頭数は1996年306戸、13,148頭、2001年262戸、12,829頭であった。5年間で農家戸数は44戸減少したが、1戸あたりの平均飼養頭数は42頭から48頭と増加していた。

表1は分娩後の主な疾病のうち、第四胃左方変位・右方変位、乳熱、ケトーシス、および子宮疾患として産褥熱、胎盤停滞を選び、1996年と2001年の発生頭数および成牛共済加入頭数に対する割合を示したものである。

第四胃変位の発生率はほぼ同じだが、左方変位が増加しているのに対し右方変位は減少していた。また、乳熱も増加がみられるものの、ケトーシス、子宮疾患は減少していた。なお、ケトーシス、子宮疾患はカルテでひろったために、他疾病と重複している場合や軽症で診療を受けていない場合も多いことから、細かな発生状況を判断することができない。

表2では第四胃変位の発生状況を初産牛と2産以降牛に分けて1996年と2001年を比較した。初産牛で7頭、2産以降牛で64頭増加しており、双方とも1割ほど増加した。

今回、第四胃変位に焦点をあて開腹手術を実施した牛を左方変位と右方変位に分け、牛へのダメージの大きさを分娩間隔の長さに置き換えて考えてみた。加えて、初産牛と2産以降牛の第四胃変位の発生原因を現場の動きを推察しながら検討した。

1. 疾病の発生状況

 

 

 

 

 

1996年

2001年

成牛共済加入頭数(戸数)

13,148頭(306戸)

12,829頭(262戸)

病名

頭数(頭)

発生割合(%)

頭数(頭)

発生割合(%)

第四胃左方変位

221

1.7

384

3.0

第四胃右方変位

422

3.2

292

2.3

乳熱

859

6.5

937

7.3

ケトーシス

298

2.3

203

1.6

子宮疾患(産褥熱、胎盤停滞)

311

2.4

162

1.3

 

表2. 第四胃変位の発生状況

産次

1996年

2001年

頭数(頭)

頭数(頭)

初産

98

105

2産以降

545

609

 


2)  左方・右方変位の実態

分娩間隔を調べた牛群は1998年4月から12月までに、分娩後1ヶ月以内に第四胃変位と診断され、右傍正中切開法で開腹手術を実施した牛を対象とした。その中で人工授精を行ない、最終授精から90日ノン‐リターンで受胎が確認できた113頭とした。また、手術時の併発疾病として、乳熱、ケトーシス、子宮疾患(胎盤停滞、産褥熱)の有無を調べた。

その牛群構成を表3で示したが、左方変位:右方変位の割合は56:44で左方変位の方が多かった。北見地区農業共済組合家畜診療所の2001年の左方変位:右方変位は57:43であった。2000年の全道の発生状況は左方変位:右方変位が64:36であり(北海道共済組合連合会)、今回調査した群は全道と同傾向であった。しかし、NRC2001年版では第四胃変位発症牛の85%が左方変位と示されている。

表4は第四胃変位を左方変位と右方変位に分けて分娩間隔を比較したものである。ここ数年、分娩間隔は年々延びており、北海道では1988年に396日であったが、2001年には424日(北海道酪農検定検査協会)まで長くなっている。

第四胃変位罹患牛の平均分娩間隔は456日にも達しており、北海道平均より長期化していた。これは分娩後のトラブルが明らかに子宮および卵巣機能の回復を遅らせ、受胎までの日数に影響していた。

ただ、左方変位と右方変位で分けてみると、左方変位で470日、右方変位で438日と左方変位で明らかに長くなっていた(1の5と同傾向)。獣医学的にみると、第四胃右方変位は第四胃捻転に移行する可能性が高く、病態の進行も早いことから左方変位に比べて重症という認識があった。また、左方変位と右方変位は同じ原因と考えていたが、左方変位の分娩間隔が長く牛に対して大きなダメージであると推察された。

表3.第四胃左方・右方変位の割合

 

頭数(頭)

割合(%)

 

左方変位

63

56

 

右方変位

50

44

 

全体

113

100

 

表4.第四胃変位牛の分娩間隔

 

頭数(頭)

分娩間隔(日)

左方変位

63

470

右方変位

50

438

全体

113

456

 

 

 

 

 


3)初産牛における四変の原因と対応

表5は第四胃変位牛の分娩間隔を左方変位と右方変位、初産牛と2産以降牛に分けて示したものである。また、表6は初産牛の分娩間隔を併発疾病の有無により比較したものである。ここでは双方とも、分娩間隔の延長を牛自体のダメージの大きさと考えた。

これらの表から、初産牛の第四胃変位の特徴をまとめると次のようになる。

@     左方変位、右方変位ともに分娩間隔が470日前後と長かった(表5)。

A     初産牛は2産以降牛より全体で21日分娩間隔が長かった(表5)。

B     分娩間隔は併発疾病の有無に関係なかった(表6)。

以上のことから初産牛の分娩間隔は2産以降牛に比べて、左方・右方に関係なく極端に長く、併発疾病の影響もなかった。第四胃変位に罹患し、開腹手術を経て治癒に至るまでが、成長期にある初産牛では2産以降牛より、大きなダメージとなっていることが推察された。

 

 最近の多頭化によって牛舎施設が間に合わず、乾乳牛がでると同時に分娩近い牛を無繋留のルースバーン牛舎から、あわてて搾乳牛舎のストールへ繋ぐ酪農家を確認した。このとき、飼料の急変や施設環境の変化によるストレスが生じる。さらに、初産牛は妊娠後期、分娩、泌乳が初めての経験であり、生理的負担も大きく、結果として乾物摂取量が低下する。

また、経産牛では乾乳期管理として前期と後期で、飼料の異なったマニュアルが示され、実践している酪農家も多い。しかし、初産牛に対して、数週間前から栄養配分やリードフイデングをしているケースは少ない。

疾病の少ない酪農家は育成期後半に搾乳牛舎と同じ繋留方法のストールで飼いながら、分娩前に馴致が行われていた。つまり、繋留方法も含めた環境変化には、胎児が急激に大きくなる分娩の2ヶ月前までに一度馴らす必要がある。数週間前に搾乳牛群へ移動してからは、繋ぎ牛舎では隣のストールを空けるか、初産牛を並べる。また、フリーストール牛舎では飼槽スペースを十分にとり、密飼いを防ぐ管理を行う。そして、いつでも餌を食べられ、水を飲める状態を保ち、乾物摂取量を落とさない管理が望まれる。

表5.第四胃変位牛の分娩間隔

 

頭数(頭)

分娩間隔(日)

初産

2産以降

初産

2産以降

左方変位

19

44

473

468

右方変位

14

36

467

427

全体

33

80

470

449

表6.初産牛の併発疾病との関係

併発疾病

頭数(頭)

分娩間隔(日)

なし

14

468

あり

19

472

全体

33

470

 


4) 2産以降牛における四変の原因と対応

 表7は第四胃変位と併発疾病(乳熱、ケトーシス、子宮疾患として産褥熱、胎盤停滞)との関係を、初産牛と2産以降牛に分けて示したものである。2産以降牛では73%に併発疾病があり、初産牛より15%高く、しかも左方変位は右方変位より11%高かった。

初産牛は成長期にありCa代謝が成牛に比べて活発で、産乳量も少なく、低Ca血症の影響が低い。しかし、産次が進むにつれて多くの牛が分娩時に潜在的な低Ca血症になり、それが周          産期疾病の引き金となり第四胃変位が発生していると推察された。

表8は2産以降牛の分娩間隔と治療日数の関係を示したものである。ここでも分娩間隔の延長を牛自体のダメージの大きさと考え、2産以降牛の第四胃変位の特徴をまとめると次のようになる。

@       併発疾病のない牛の分娩間隔は460日前後と長かった。

A       左方変位で併発疾病のある牛の分娩間隔は長く、特に乳熱では491日と最も長かった。

B       併発疾病のない牛の治療日数は短く、左方・右方変位ともに1〜2日であった。

C       併発疾病のある牛の治療日数は左方変位の方が右方変位より長く、その差は1〜2日であった。

以上のことから、産次が進むほど左方変位で併発疾病のある牛の治療日数が長く、回復までに時間を要し分娩間隔も長かった。特に乳熱が併発した場合は、最も長期化していた。結果として、乾物摂取量が上がらず、子宮および卵巣機能の回復が遅れ分娩間隔も長くなったと思われる。一般的に右方変位の方が重症と考えていたが、今回の調査では左方変位の方が回復は遅かった。ただ、右方変位の中で併発疾病のある牛が、右方変位単独より分娩間隔が短いのは明らかにできなかった。

 

2産以降牛でも初産牛と同様に、移動ストレスを減らし、乾物摂取量を落とさない管理をすべきである。さらに、乾乳期から分娩初期にかけて環境を改善し、良質粗飼料を給与し、ミネラルバランスをとって、高産次になるほど低Ca血症を予防することが必要と思われる。

最近普及しているTMRにおいても、粗飼料の品質、攪拌時間、水分、給与回数が酪農家間で異なり、選び食いが生じていることもあった。これも第四胃変位の誘因になる可能性が高く、均一な飼料の提供が望まれる。

表7.産次別、併発疾病割合

 

 

頭数(頭)

併発疾病あり

 

頭数(頭)

割合

 

初産

33

19

58%(左58%右57%)

 

2産以降

80

58

73%(左77%右66%)

 

 

 

 

表8.2産以降牛の分娩間隔と治療日数の関係

併発疾病

左方変位

右方変位

分娩間隔(頭数)

治療日数

分娩間隔(頭数)

治療日数

手術前

手術後

手術前

手術後

なし

460(10)

1

1

459(12)

0

1

乳熱

491(14)

4

3

399 (6)

3

2

ケトーシス

472(26)

5

3

415(18)

3

2

子宮疾患

464(19)

5

4

433(12)

4

3

 

 

今回、獣医師と専門技術員が第四胃変位に異なる視点から現場における調査、検討をしてみた。その結果、初産牛はストレス、加えて高産次になるほど低カルシウム血症を防ぐ飼養管理と、きめ細かな対応が求められることがわかった。

 

最後に、本稿をまとめるにあたり協力していただいた北見地区農業共済組合家畜診療所の獣医師各位、加藤 誠氏、北海道農業共済組合連合会の塚田康裕氏、北海道酪農検定検査協会小板英次郎氏に深謝致します。