タンホイザー
 このページからいよいよ独逸オペラの雄、リヒァルト・ワグナーの作品を取り上げていきます。本音を言いますと、ワグナーの作品を取り上げるのは少々気が重いのです。彼の作品はおそらく本人の思いと関係なく色々な思想と結び付けて解釈、其れも誤解もしくは曲解され、挙句の果てにナチスドイツとの親和性まで云々されて、長い間イスラエルで演奏が自粛されたりしていました。当サイトでは彼の背後にあると言われるゲルマン民族至上主義の思想がどうこうと言うことではなく、純粋に作品の進行を紹介していこうと思っています。ワグナーのオペラの後期の作品は歌劇ではなく、楽劇と呼ばれる事が多いのですが、これは従来のオペラよりもさらに管弦楽の部分に工夫を凝らした故かもしれませんが、作曲者自身は楽劇と云う言葉を使わなかったと言う説もあります。なお、此処で取り上げるタンホイザーは、ワグナーの作品群の中で最もポピュラーな作品であり、ローエングリンと共に俗にロマンティックオペラと称するカテゴリーに入るもので、美しいアリアや管弦楽の幻想的な響きが十分堪能できる、親しみ易い作品に仕上がっています。尚、作曲者自身の概要は<ここをクリック>してもご覧いただけます。また、画像にマウスポインタを置くと歌手名等が表示されます。
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 作曲者 リヒァルト・ワグナー
 作曲年 1843〜1845年
 舞台  中世の独逸・チューリンゲン地方
 原作  L・ティーク「忠実なエッカルトとタンホイザー」、グリム兄弟「ワルトブルク
     合戦」E・T・A・ホフマン「歌手達の戦い」等から作曲者自ら題材を拾う。
 台本  リヒァルト・ワグナー
主な登場人物
 ヘルマン   チューリンゲン地方の領主
 タンホイザー 騎士にして吟遊詩人
 ヴォルフラム タンホイザーの友人
 ワルター   チューリンゲンの騎士
 ビテロルフ  チューリンゲンの騎士
 エリーザベト ヘルマンの姪・清純な愛の象徴
 ヴェーヌス  ヴェヌスブルクに住む女神・官能の象徴
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第一幕・第一場  ヴェヌスブルクの洞窟 リチャード・キャシリーとタチアナ・トロヤノス
 騎士タンホイザーは女神ヴェーヌスとの愛の行為に疲れて彼女の膝枕で心地よい眠りに就き、海の精の声が聞こえる中、ニンフ達は官能的な踊りを繰り広げている。目を覚ましたタンホイザーはもう快楽の世界には飽きてしまったから現実の世界に戻りたいと言い出すが、ヴェーヌスは甘い言葉と媚態で彼を引きとめようとする。タンホイザーは竪琴を取って彼女を賛美するが、途中でどうしても望郷の思いを断ち切れなくなってしまう<貴女を讃えて歌う>。ヴェーヌスは益々妖艶な歌で彼を誘惑し、タンホイザーの気持ちが変らない事を知って彼を裏切り者と罵るが、タンホイザーが聖母マリアに救いを求めるとヴェーヌスは悲鳴をあげて倒れ、ヴェヌスブルクは霧のように消えてしまう。
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   ・第二場  ワルトブルク城近くの広場 
リチャード・キャシリー
 タンホイザーは突然自分が、春の明るい日差しの中で牧童の吹く笛が響く美しい谷間にいることに気付く。そこで聖地ローマ巡礼の一行に出会うので、彼は祈りを捧げる。やがて遠くから角笛の音が聞こえ、狩の帰途の領主へルマンが騎士たちを連れて通りかかり、タンホイザーを見つける。彼らは長い間行方不明だったタンホイザーの帰還を喜び、中でも彼の親友ヴォルフラムは再び仲間に戻るように誘うが、ヴェヌスブルクでの快楽に溺れた罪の意識からタンホイザーは躊躇する。エヴァ・マルトンしかしヴォルフラムから領主の姪エリーザベトがずっと自分を待ち続けている事を聞くと、彼女に対する愛を呼び覚まされ、ようやく城に戻る事を決心する。領主と騎士たちはタンホイザーと共に城への帰途につく。
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第二幕  ワルトブルク城の歌の殿堂 
 エリーザベトは密かに心寄せるタンホイザーが失踪して以来、久しぶりに歌の殿堂に来て歌合戦に参加する喜びを歌っていると<厳かなこの広間よ>、そこにヴォルフラムに伴われてタンホイザーが現れ、彼はエリーザベトの足元に跪く。清純な彼女はタンホイザーがどんな暮らしをしていたかを知る由も無く、二人は再会の喜びに激しく抱きあう。その様子を見ていたヴォルフラムは、エリーザベトに対する密かな思いを親友の為に諦めなければならないと悟り、歌合戦の支度の為にタンホイザーと共に立ち去る。領主ヘルマンが現れ、姪のエリーザベトの恋心を知って優しい言葉をかける。壮麗な金管楽器の響きとともに歌合戦が始まり、大広間には騎士や貴族、貴婦人達が続々と集まってくると<大行進曲・歌の殿堂を讃えよう>、挨拶に立った領主ヘルマンが、今日の歌ベルント・ワイケル合戦の課題が愛である事を厳かに宣言する。最初に立ったヴォルフラムは清らかな愛の尊さを歌うが<この高貴な集いを見渡せば>、妖しげな魔性に取りつかれたタンホイザーは、愛の本質は快楽だと反論の歌を歌う。騎士のワルターやビテロルフもヴォルフラムの側に立つと、感情を抑え切れなくなったタンホイザーは遂に快楽の女神ヴェーヌスを讃える歌を歌うので彼がどこでどんな暮らしをしていたのかが露見してしまう。貴族達はタンホイザーを激しく非難し、貴婦人達は驚き恐れて殿堂から立ち去ってしまう。騎士たちは剣を抜いてタンホイザーに迫るが、エリーザベトが必死に彼を庇い改悛の機会を与えるよう皆に懇願するので、タンホイザーも悔悟の念に目覚める。領主ヘルマンはヴェーヌスのもとで快楽の罪を犯したタンホイザーに対し、その罪を償う為に巡礼としてローマへ赴き、ローマ法王の赦免を得て帰国する事を命ずる。そこへ若い巡礼の一団が通りかかり、タンホイザーは"ローマへ!"と叫んで巡礼の旅に立つ。
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第三幕  ワルクブルト城近くの谷間 
 丘の上の聖母マリア像にタンホイザーの罪の赦免と無事の帰還を祈るエリーザベトの健気な姿をヴォルフラムは見守り、彼女の真情に深く同情する。そこに罪を許された巡礼の一行が通りかかるが<巡礼の合唱・故郷よ、又見る野山よ>、その中にタンホイザーの姿を見出す事が出来ないエリーザベトは再びマリア像に向かって祈りを捧げ、彼の罪が許されるなら自分の命を召されても構わないと云う。丘を降りていくエリーザベトを見送ったヴォルフラムは、彼女の死が遠くない事を予感して竪琴を弾き、夕星に彼女の無事を祈りながら歌う<夕星の歌・優しい夕星よ>。夜もふけた頃、激しい苦悩と疲労の為にやつれ果てたタンホイザーがヴォルフラムのもとに現れ、自暴自になってヴェヌスブルクへの道を尋ねる。驚いたヴォルフラムがタンホイザーを詰問すると、その友情に心動かされたタンホイザーはローマでの出来事を語りだす<ローマ語り・心の熱意で>。其れによると苦行の末にローマへたどり着きローマ法王に罪の許しを請うたが、法王にひと度ヴェヌスブルクに留まった者は永遠に呪われ、僧杖に新緑の芽が出ない様にお前も永遠に赦される事は無いのだ、と宣告されたと言う。全てに絶望したタンホイザーはもうヴェヌスブルクへ行くしかないと、ヴェーヌスの名を叫ぶと辺りは妖気に包まれてヴェーヌスが姿を現し、彼を迎え入れようとする。ヴォルフラムは彼をヴェヌスブルクに行かせまいとして揉み合い、エリーザベトの名前を呼ぶとタンホイザーは悪夢から覚め、ヴェーヌスも姿を消す。遠くからエリーザベトの亡骸を運ぶ葬列が近づき、タンホイザーは彼女の棺の上に倒れて息絶える。巡礼たちは僧杖が新緑の芽を付けたと云い、神を讃えてハレルヤを叫ぶ。
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お奨めディスク  
1982年・メトロポリタン歌劇場でのライヴ収録ディスク どうもワグナーのオペラというのは演出家による過度な解釈がなされ、その結果時代背景や作曲家の活躍した年代を無視した、実にみょ〜な舞台演出が行われる事があります。某国営放送での「ジークフリート」では主人公が壊れかけた安アパートみたいな建物に住んでいて、部屋には冷蔵庫や電子レンジ、スーパーマンのTシャツを身に纏ったジークフリートを見せられた時には"ワグナーを舐めとんのか!"と思わず叫んでしまいました。名指揮者アルトゥーロ・トスカニーニは「オペラのステージでは主人公は歌手でも指揮者でも演出家でもなく、作曲家です。作曲家とその作品に対する敬意が素晴らしい上演を可能にします。」と云う意味の事をいっていましたが.、オペラ上演に携わる人たちは是非マエストロの言葉をかみ締めて欲しいと思います。と、初めから厳しいことを言ってしまいましたが、この作品のお奨めディスクとしては右の写真にあります、メトロポリタン歌劇場のライヴ収録盤をご紹介したいと思います。メトロポリタンオペラの演出はどちらかと言うとやや保守的で、口の悪い評論家からは「何の工夫も無い演出」と批判される事も少なくないのですが、ワグナーの作品のように時代背景が中世のヨーロッパだったり、神と人間が共存している頃の場合は、余り妙な思い入れから演出家の自己満足としか思えないような「斬新な」演出を取り入れるのは避けた方が良いのではないかと思います。勿論飽くまで私見ですが。話が少し飛んでしまいましたが、このディスクではヴェーヌスをタチアナ・トロヤノスが、エリーザベトをエヴァ・マルトンが歌っています。実は女性の二面性を重視した演出では、同じ歌手がエリーザベトとヴェーヌスを歌う場合も少なからずあります。このヴェーヌスとタンホイザーが現れる最初の場面でかなりエロティックな演出をしているディスクもありますが、メトロポリタンのこのディスクではまぁR指定にはならない程度のおとなしめの演出になっています。その他歌の殿堂の場面やヴォルフラムの歌う<夕星の歌>の場面でも、あらすじだけを読んだ時のイメージとの違和感は少ないものです。そのような理由から、私を含めたオペラ初心者にとっては入り易いディスクと思います。なお、このディスクの主な配役を下に列挙しておきましたので、ディスク購入の際の参考にして頂ければ幸いです。
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主な配役
ヘルマン   ジョン・マカーディ    バス
タンホイザー リチャード・キャシリー  テノール
ヴォルフラム ベルント・ワイケル    バリトン
ワルター   ロバート・ナジ      テノール
ビテロルフ  リチャード・J・クラーク バス
エリーザベト エヴァ・マルトン     ソプラノ
ヴェーヌス  タチアナ・トロヤノス   ソプラノ
演出     オットー・シェンク
指揮     ジェイムズ・レヴァイン
演奏     メトロポリタン歌劇場管弦楽団・合唱団



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