METROPOLITAN MANDOLIN ORCHESTRA

第24回演奏会

1.日時

2013年10月6日(日) 13:30開場 14:00開演

2.場所

紀尾井ホール

3.指揮者

小出 雄聖

4.曲目

リヒャルト・シュトラウス(笹崎譲編曲)/変容(メタモルフォーゼン) AV.142
アルノルト・シェーンベルク(笹崎譲編曲)/浄められた夜 op.4

5.楽曲解説

リヒャルト・シュトラウス(1864〜1949)

変容(メタモルフォーゼン) AV.142(1945)

リヒャルト・シュトラウスは第2次世界大戦中、自由に国外に出ることは許されず、刻一刻と祖国ドイツが滅びゆく様を眼前に眺め、それをどうすることもできない状況にいました。大戦の末期である1945年、80歳を超えていたシュトラウスは、激しくなる戦火を避けてガルミッシュ=パルテンキルヘンの自分の山荘に避難していましたが、ここへも砲声が轟き、各地での敗戦の悲報が伝えられてきました。ミュンヘン、ドレスデンが廃墟と化し、3月にシュトラウスは悲痛な気持ちで「メタモルフォーゼン」のスケッチに取り組みます。こうして、この曲は戦争で失われていく生命や文化に対する挽歌として、世界の終末を悼む作品となっていくのです。指揮者としても活躍したシュトラウスの本拠地、ウィーン国立歌劇場は、3月12日にアメリカ軍の攻撃で崩壊、その翌日の13日から「メタモルフォーゼン」のスコアに着手、1ヵ月後の4月12日に完成し、その最後には「イン・メモリアム(=追憶に)」と書かれました。そして翌13日にはソビエト軍がウィーンを占拠し、その後4週間ほどでドイツは降伏します。

この曲は、一般の弦楽合奏と異なり、各奏者が独立したパートを担当するように書かれ、「23の独奏弦楽器のために」という副題が付いています。シュトラウス最晩年の熟練した書法はたいへん精緻であり、対位法の粋が凝縮された作品となりました。メトロポリタン・マンドリン・オーケストラでは2005年に一度取り上げていますが、本日はその際の編曲にさらに改定を加えて演奏します。ソロとトゥッティを巧みに組み合わせ、マンドリン・オーケストラならではの多層的な響きをお届けできると確信しています。

全体の構造は自由なソナタ形式と解釈されますが、そのうち最重要のテーマは、ベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」第2楽章葬送行進曲の冒頭部分の主題の引用です。

曲は緩やかに始まり、意外な和声進行を特徴とする第1主題@に続き、ベートーヴェンの葬送行進曲を変容(=メタモルフォーズ)させた第1主題Aが現れます。この主題冒頭の連続する同じ音からなる4分音符は、全曲を通して重要なモティーフとなります。さらに、これら2つの主題から派生した主題群が続き、小さなクライマックスを築くと、続いて、“少し流れるように”と指示されたト長調の第2主題が現れます。

曲はいつしか展開部へと移行します。今までに出た諸動機を複雑な対位法で組み合せ、感情を高めていく部分です。自作の楽劇「ばらの騎士」からの引用と思われる動機も現れます。全曲最大のクライマックスに向かってクレッシェンドし、テンポを上げ、ついにはとどまったG音があたかも今まで築き上げてきたものをすべて失うかのように12度下のC音へと落下し、展開部を終えます。

続いて自由な再現部です。「連続する4分音符」が半音上で対位法的に覆いかぶさって軋む部分は、展開部より遅いテンポで出現することもあって、悲痛さを増しています。

コーダに入り、曲はさらに沈痛な表現に傾いていきます。曲の最後の部分は“モルト・レント”に速度を落とし、葬送行進曲の原形が待ちかねたように、はっきりとただ1回だけ演奏され、全編を閉じます。ここで聴衆は、今までの音楽全体が葬送の音楽の「変容」でもあったことを知るのです。

シュトラウスは山荘に避難しているときに、ゲーテの作品を熟読する生活を送っていたといいます。ゲーテの詩「植物の変容」「動物の変容」といった博物誌的な作品からの暗示も受けて、葬送へつながっていく人間を描いた楽曲という標題音楽的な側面も併せ持っているのです。
(2005年8月、2013年8月:記)

アルノルト・シェーンベルク(1874〜1951)

浄められた夜 op.4 (1905)

シェーンベルクは、12の音高すべてを平等に扱う12音技法を確立した作曲家として音楽史に位置付けられていますが、この作品は25歳の1899年に完成した弦楽六重奏曲で、無調 〜12音音楽のスタイルをとるようになる前、後期ロマン派のスタイルによるたいへんロマンティック調性音楽です。原曲の編成はヴァイオリン、ヴィオラ、チェロがそれぞれ2名ずつとなっています。後に弦楽合奏に編曲を施し、コントラバスを加え、独奏部分と合奏部分を配すことにより、よりダイナミックで色彩的なものとなりました。

「浄められた夜」は、世紀末のドイツ語文学界の印象主義を代表する詩人で、「燃える熱情に身を焼きながら神と野獣のとのはざまをのたうちまわり」、エロスと憂愁の気分を陶酔的に表現したリヒャルト・デーメル(1863〜1920)、その詩集「女と世界」の中の一編「浄められた夜」に基づいて作曲されています。この詩は、情景、女の独白、情景、男の独白、情景、以上5つの部分から成り立っていますが、シェーンベルクの楽曲もこの構成に従っています。

曲は、ふたりの人間の歩みを表すかのように静かな4/4拍子のニ短調で始まります(「歩みの動機」)。続く女の独白に対応する部分もニ短調に始まりますが、半音階的でしばしば無調に近い音楽へと傾斜します。この部分は第1ソナタと解釈してよいでしょう。再び「歩みの動機」による情景を挟んでからの男の独白の部分は、ニ長調の全音階的書法を中心とする第2ソナタです。第2ソナタの第2主題にあたるセクションの、降り注ぐ「月の光」を連想させる響きの美しさは格別です。男が語り終えると、「歩みの動機」が三度提示され鎮まり、森の梢の静かなざわめきにも似たアルペジオのうちに情景を閉じていきます。

「浄められた」とは「変容した」「輝かしく晴れやかになった」「美しいものに生まれ変わった」の意です。ニ短調からニ長調への調性による浄化は、ベートーヴェンの第9交響曲を強く意識したのでしょう。しかし、楽曲の最後はすべてが解決されたハッピーエンドとは限らず、詩の内容から考えると、これから先に待ち受ける苦難の始まりとも解釈できると、編曲者は分析しています。

シェーンベルク自身は、「回想記」でこう語っています。
『一方にはワーグナー風の技法がある。活発なハーモニーの上に、ある定まった音型をのせる、ゼクヴェンツのような表現法。他方にはブラームス風の展開的変奏技法・・・もっとも、旋律の拡張、対位法的展開、あるいは伴奏声部とバスが旋律に対して対位法的な動きをする点、ここらにシェーンベルク風がみられるものとみずから信じている次第。』

マンドリン・オーケストラによる編曲演奏は、これら楽曲の本質を別の角度から浮き彫りにする可能性を大いに秘めていると、私たちは考えています。
(2013年9月:記)

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