歯車

DVDとTV映像に観るオペラの楽しみ
(1)ヴェルディとプッチーニ


DVDによる音楽映像ソフトが増えてきました。クラシック界においてはこれまで一部のファンを除いては馴染みの薄かったオペラの舞台というものが一挙に身近なものになりました。これまでのようにCDの全曲盤を聴き通すという純音楽的な苦行からも解放され、本来の大衆音楽劇としてのオペラを茶の間で気軽に楽しめるようになりました。作品の解説は別のサイトに、難しい音楽的評論は専門家にお任せするとして、ここでは手元にあるオペラ映像ソフト(LD、DVDならびにTVからの録画)について素人ファンの視点からの紹介をしてみましょう。最初はヴェルディとプッチーニ。共に圧倒的な音楽、馴染みやすい旋律、悲劇の物語、豪華な舞台を売りとし、時代を超えた人気を誇るイタリア近代オペラの代表作が並びます。(2006.10.29 Updated)
尚、マークはあくまでも個人の趣味によるものです。(:水準、☆☆:水準以上、☆☆☆:推薦、☆☆☆☆:特薦)

<ヴェルディ>


ナブッコ
LIVE/1979/パリオペラ座/N.サンティ(C)/H.ロンス(D)
S.ミルンズ(Br)/G.ハンブリー(S)/R.ライモンディ(Bs)/C.コスタ(T)

シオニズムの装いを忘れるならば、初期ヴェルディの音楽は若々しく雄渾で、「黄金の翼に乗せて」をはじめとする美しい合唱もたっぷりと楽しむことが出来る。ミルンズ(ナブッコ)、ハンブリー(アビガイッレ)、R・ライモンディ(ザッカリア)らの迫真の歌唱も見事だ。しかし、あまりに劣悪な録画質に長時間や繰り返しの正視は耐えられない。演奏と歌唱が見事なだけに残念だ。
の数は画質の悪さによって2つ減。


ナブッコ
LIVE/2001/ウィーン国立歌劇場/F.ルイージ(C)/G.クレーマー(D)/BS録画
L.ヌッチ(Br)/M.グレギーナ(S)/J.プレスティア(Bs)/M.ドヴォルスキー(T)

この作品には現代演出が良く似合うが、もう一工夫欲しかった。歌詞内容のシオニズム賛歌にも辟易とさせられるが音楽の説得性さはそんな政治宗教臭さを遥かに凌駕する。M・グレギーナ(アビガイッレ)のドラマチックソプラノは迫力のみならず情緒にも溢れ素晴らしい。舞台上でも強烈な存在感に溢れ、圧倒的な名演、名唱である。ヌッチ(ナブッコは)いかにもベテランらしい安定感を舞台に与えている。ドマシェンコ(フェネーナ)の力強いメゾも重唱部のドラマ性を高めている。


トロヴァトーレ
LIVE/2002/コヴェントガーデン歌劇場/C.リッツィ゙(C)/E.モシンスキー(D)/BS録画
J.クーラ(T)/D.ホロストフスキー(Br)/V.ビリャロエル(S)/I.ネフ(MS)/

数多いヴェルディのオペラの中でも特に豊かな音楽性に満ちた作品だ。クーラ(マンリーコ)とホロストフスキー(ルナ伯爵)という現代を代表する実力派2大スターの競演は実に聴き応えがある。ビリャロエル(レオノーラ)にはもう少し個性が欲しかったがネフ(アズチェーナ)の暗く響くメゾは作品のドラマ性を深めている。


トラヴィアータ(椿姫)
MOVIE/1982/メトロポリタン/J.レヴァイン(C)/F.ゼッフェレッリ(D)/DG/DVD
T.ストラータス(S)/P.ドミンゴ(T)/O.マクニール(Br)

ゼッフェレッリによる見事な映画化作品。とりわけパリの裏社交界の夜会の場面の豪華絢爛さは映画ならではの贅沢な演出。ヴィオレッタに演技派テレサ・ストラータスを起用し映画作品としての完成度を深めている。ドミンゴ(アルフレード)の演技には多少単調さが感じられるがその歌唱でオペラ映画としての格調を高めるのに大きく寄与している。ボリショイ・バレーのプリマ、E・マクシーモワの踊りという贅沢なおまけ付き。
トラヴィアータ(椿姫)
TV/1988/ロンドン・フィル/B.ハイティンク(C)/P.ホール(D)/AH/DVD
M.マクローリン(S)/W.マクニール(T)/B.エリス(Br)

1988年の英国グラインドボーン音楽祭におけるTV化映像。M・マクローリン(ヴィオレ ッタ)、W・マクニール(アルフレード)という英米を代表する若手実力派による正統的 なヴェルディだ。しかし、あまりにTV的な映像が音楽の雄弁さと一致しない。出演者と演出にもうひとつの魅力と決定打が欲しかった。


トラヴィアータ(椿姫)
LIVE/1994/ロイヤルオペラ/G.ショルティ(C)/R.イーレ(D)/DECCA/DVD
A.ゲオルギュー(S)/F.ロパルド(T)/L.ヌッチ(Br)

1994年のロイヤルオペラ、ライブ映像。ショルティの指揮をオペラ映像で眺められる のも珍しいのではないだろうか。数年後に死去とは思えない颯爽とした演奏だ。この作品の成否はひとえにヴィオレッタの魅力にかかっている。A.ゲオルギューにとってはこの 舞台が最初のヴィオレッタとのこと。歌唱、演技、容姿の全てにおいて、この天性のオペ ラ女優のフレッシュな魅力が全開だ。


トラヴィアータ(椿姫)
LIVE/2005/ザルツブルグ音楽祭/C.リッツィ(C)/W.デッカー(D)/BS録画
A.ネトレプコ(S)/R.ビリャソン(T)/T.ハンプソン(Br)

話題となった2005年夏のザルツブルグ音楽祭映像。これは伝統的な「椿姫」ではない。ウィーンフィルも合唱も、そしてハンプソン(ジェルモン)のような共演者たちさえもがネトレプコのためにだけ用意されたような舞台。衣装やシンプルな装置もただ彼女をひき立てることだけを目的にしている。そして、それにしっかりと応えることが出来たネトレプコも凄い。歌唱面では余計な冒険は避けつつも、持って生まれたスター性と役柄への集中力で緊張感に満ちた素晴らしい舞台を作り上げた。



仮面舞踏会
LIVE/1980/メトロポリタン/G.パタネ(C)/E.モシンスキー(D)/PIONEER/DVD
L.パヴァロッティ(T)/K.リッチャレエルリ(S)/L.キリコ(Br)/J.ブレーゲン(S)

1980年のメトのライブ盤(ボストン版)。豪華な舞台もさることながら出演者たちが極上のパーフォーマンスを見せ、聴かせてくれる。パヴァロッティ(リッカル ド)のテノールとリッチャレエルリ(アメリア)のソプラノは伸び、強さ、情感共に素晴らし い。キリコ(レナート)のバリトンは渋く力強い。そして、ブレーゲンの溌剌とした演技と明るいコロラトゥーラはオスカル役にぴったりである。雄渾なヴェルディ・オペ ラの素晴らしさを堪能できる。映像の鮮明度は今一つだが全体の完成度に比べたら取るに足らない欠点である。
後日掲載


仮面舞踏会
LIVE/2001/ミラノスカラ座/R.ムーティ(C)/L.カヴァーニ(D)/BS録画
S.リチートラ(T)/M.グレッギーナ(S)/B.カプローニ(Br)/O.サラ(S)

ムーティ指揮のオケを中心としたミラノスカラ座による豪華な音楽の饗宴を楽しむことが出来る。スカラ座によるヴェルディの伝統を改めて感じさせる舞台だ。リチートラ(リカルド)はかってこの役でデビューしたということだけあって安定した歌唱だ。グレッギーナ(アメリア)のドラマティックソプラノの素晴らしさは言うまでもないが、カプローニ(レナート)とサラ(オスカル)には不満が残る。

リゴレット
MOVIE/1982/ウィーンフィル/R.シャイー(C)/J.P.ポネル(D)/DECCA(UNITEL)/DVD
L.パヴァロッティ(T)/E.グルベローヴァ(S)/I..ヴィクセル(Br)

色彩豊かな映画盤。グルベローヴァの声は美しいが、濃いキャラクターとビブラート多用の歌唱がジルダには似合わない。ヴィクセルのリゴレットは迫力と不気味さに欠ける。一方、パヴァロッティが伸びるテノールでマントヴァ公爵を好演。ヴェルガーラのマッダレーナも実に良い味を出している。しかし、この盤の最大の魅力はウィーン・フィルの素晴らしい響きだろう。




リゴレット
LIVE/1999/ロイヤルオペラ/E,ダウンズ(C)/D.マックヴィカー(D)/BBC/DVD
P.ガヴァネリ(Br)/C.シェーファー(S)/M.アルヴァレス
(T)
ロイヤルオペラのライブ盤。舞台装置はシンプルだが16:9画面、5.1CHに対応した最新映像。ガヴァネリのリゴレットは迫力、感情表現、歌唱共に素晴らしい。小柄で清楚なシェーファーのジルダはイタリア人には受けないかもしれないが、その丁寧で美しい歌唱は聴く者を魅了するだろう。オペラ界における新しいスタイルのヒロイン登場だ。尚、シェーファーについての更に詳しい情報はここをクリック。


シモン・ボッカネグラ 
LIVE/1995/メトロポリタン/J.レヴァイン(C)/DG/DVD
V.チェルノフ(Br)/K.T.カナワ(S)/P.ドミンゴ(T)/R.ロイド(Ba)
メトロポリタン歌劇場による豪華な舞台装置と出演者。ヴェルディの中では比較的地味な作品だけに評価の難しい映像作品だ。チェルノフ(シモン)とテ・カナワ(アメリア)の優れ、かつ安定した歌唱がこのオペラの深みに大きな貢献をしている。難点の見つからない一方、格別な感動も引き起こさない。繰り返しの視聴によってこそ、その良さを味わえる作品かもしれない。

アイーダ
LIVE/1989/メトロポリタン/J.レヴァイン(C)/DG/DVD
A.ミッロ(S)/P.ドミンゴ(T)/D.ツァーイック(MS)/S.ミルンス(Br)

いかにもメトロポリタン歌劇場らしいスペクタクルな舞台。しかし、音楽はむしろ派手な演出を終えた第3幕以降が雄弁でかつ美しい。当り役と言われているミッロ(アイーダ)の声はドラマティックに過ぎて情感に欠け(終曲を除いて)、演技力も弱い。一方、ツァーイック(アムネリス)は歌唱力も演技も共に素晴らしく、題名を「アムネリス」としたいくらいだ。ドミンゴにあまり見せ場はない。


オテロ
MOVIE/1973/ベルリン・フィル/カラヤン(C&D)/DG(UNITEL)/DVD
J.ヴィッカース(T)/M.フレーニ(S)/P.グロソップ(Br)

カラヤンの総指揮による映画盤。シェークスピア古典として割りきれば良いのだろうが、冒頭でオテロが回教徒への侵略行為を正当化したり、一方的な理屈による妻への人権無視(果てに殺人)という作品そのものに抵抗を感じてしまう。もっとも、そのことによって新しい音楽的地平を切り拓いたヴェルディ晩年の傑作を否定してはならないのだろうが。ここで、ヴィッカース(オテロ)はドラマテッィクな、フレーニ(デズデモナ)は清潔感に満ちた歌唱を聴かせている。


オテロ
LIVE/2001/ベルリン国立歌劇場/D.バレンボイム(C)/J.フリム(D)/AH/DVD
C.フランツ(T)/E.マギー(S)/V.アレクセーエフ(Br)

あまりに救いようの無い物語ゆえに、この作品はどうも苦手だ。デスデモナに同じベルリンで伯爵夫人(フィガロ)を好演したE・マギーを起用、現代演出と相俟って今日的なドラマ性を感じさせる。C.フランツは声に張りがあり歌唱も安定しているが、次第に狂気に陥っていくオテロの表現にはもっと凄みが欲しかった。


ファルスタッフ
LIVE/2001/ジュゼッペ・ヴェルディ劇場/スカラ座//R.ムーティ(C)/R.カプッチョ(D)/TDK/DVD
A.マエストリ(Br)/B.フリットーリ(S)/I.ムーラ(S)/R.フロンタリ(Br)

ヴェルディ最後の作品は意表をついたシェークスピアの喜劇「ウィンザーの陽気な女房たち」だが音楽は決して軽くない。とても丁寧かつ色彩豊かな演出に加えて、マエストリ(ファルスタッフ)、フリットーリ(アリーチェ)といった若手が舞台効果を盛り上げている。ムーラ(ナンネッタ)が第3幕の妖精の歌をはじめとするリリックな
歌声で聴く者を魅了する。


<プッチーニ>





ラ・ボエーム
MOVIE/1965/ミラノ・スカラ座/カラヤン(C)/F.ゼッフェレッリ(D)/DG(UNITEL)/LD
G.ライモンディ(T)/M.フレーニ(S)/A.マルティーノ(S)/R.パネラィ(Br)

ゼッフェレッリ、カラヤン、ミラノ・スカラ座のコンビによるこの作品の定番ともいえる映画盤。ライモンディ(ロドルフォ)の声量、力強さには圧倒される。まさに絶品である。当時30才のフレーニはすでにミミの第一人者としての地位を獲得している。奔放なムゼッタを演じるマルティーノは美しい。そしてカラヤンの音楽は起伏と情感に富み、これぞプッチーニ節ともいえる快い音楽の陶酔に誘う。

ラ・ボエーム
LIVE/1982/メトロポリタン/J.レヴァイン(C)/F.ゼッフェレッリ(D)/PIONEER/LD
J.カレーラス(T)/T.ストラータス(S)/R.スコット(S)/R.スティルウェル(Br)

ライモンディやパヴァロッティのロドルフォに慣れるとカレーラスの声量にはどうしても不満が残ってしまう。また、さすがのストラータスも44才ともなると映像でのミミ役にはちょっと辛い(同じ年に収録された映画盤の「椿姫」や「道化師」では素晴らしいパフォーマンスを見せてくれるのだが)。49才のスコットの容姿もムゼッタ役には違和感を感じる。

ラ・ボエーム
LIVE/1982/サンフランシスコ歌劇場/T.セヴェリーニ(C)/F.ザンベロ(D)/AH/DVD(PAL)
L.パヴァロッティ(T)/M.フレーニ(S)/S.パセッティ(S)/G.キリコ(Br)
カラヤンの映画盤から17年を経てフレーニも47才。映像で年令を隠すことは出来ない。しかし、この天性のミミ歌いは年令の加算を円熟へと置きかえることでその役を確固たるものにしている。パヴァロッティも安定した美声で聴く者を魅了する。スリリングさは無いが安定した舞台である。


ラ・ボエーム
LIVE/2003/ミラノスカラ座/B.バルトレッティ(C)/F.ゼッフィレッリ(D)/TDK/DVD
M.アルバレス(T)/C.ガイヤルド=ドマス(S)/H.キュー・ホン(S)/R.セルヴィーレ(Br)
2003年になってもスカラ座ではゼッフィレッリによる豪華な舞台演出が40年以上にわたって続けられている。ヒロインのガイヤル=ドマス(ミミ)はかのフレーニを更にエキゾチックにした雰囲気だ。南米(チリ)出身だけあって情熱的な表情と歌いまわしによってドラマ性を高めている。そういえば、アルバレス(ロドルフォ)も南米(アルゼンチン)出身だ。ここでもよく伸びる甘美な声で聴く者を魅了する。伝統ある演出が若い出演者たちによって新鮮さを取り戻したといえる。



トスカ
LIVE/1985/メトロポリタン/G.シノーポリ(C)/F.ゼッフェレッ(D)/PIONEER/LD
H.ベーレンス(S)/P.ドミンゴ(T)/C.マックニール(Br)

豪華な舞台装置と大物出演者を売り物とする一連のメトロポリタンのライブシリーズのひとつ。ベーレンスが情熱的で気丈なトスカをドラマティックに歌い上げて素晴らしい。このオペラはひとえにタイトルロールの力量にかかっている。ドミンゴ(カヴァラドッシ)はここでも単調だが歌は巧い。マックニール(スカルピア)の悪役ぶりははまっている。


トスカ
LIVE/2000/ミラノスカラ座/R・ムーティ(C)/L・ロンコーニ(D)/TDK/DVD
M・グレッギーナ(S)/S・リチートラ(T)/L・ヌッチ(Br)


<後日記載>

西部の娘
LIVE/1992/メトロポリタン/L.スラットキン(C)/J.D.モナコ(D)/DG/LD
P.ドミンゴ(T)/B.ダニエルズ(S)

<後日記載>



ジャンニ・スキッキ
LIVE/2004/グラインドボーン音楽祭/V・ユロフスキ(C)/BS録画
A・コルベリ(Br)/S・マシューズ(S)/F・パーマー(MS)/M・ジョルダーノ(T)

グラインドボーンからの最新映像。遺産相続をめぐるドタバタ群像劇だが、名曲「私のお父さん」をはじめとするプッチーニの音楽によって実に洒落た作品となっている。また、かっての若手プリマ、M・マクローリンをはじめとする脇役たちが軽妙な掛合いとコンビネーションによって何度も笑わせてくれる。徹底した演技指導とリハーサルがなされたことが窺える。主役のコルレッリ(スキッキ)がまさにハマリ役の傑作舞台だ。




トゥーランドット
LIVE/1987/メトロポリタン/J.レヴァイン(C)/F.ゼッフェレッ(D)/DG/DVD
E.マルトン(S)/P.ドミンゴ(T)/L.ミッチェル(S)

メトロポリタンの豪華な舞台と衣装、ドミンゴとマルトンの迫力溢れる超ドラマティックな歌唱の競演、しっかり脇を固める共演陣、美しい合唱と見所、聴き所の多い映像作品である。冷酷なトゥーランドット姫には動きや演技よりもひたすらドラマティックな歌唱力を要求されるだけにエヴァ・マルトンは適役といえる。また、リュー役のミッチェルが切々と歌うリリコ・ソプラノもとても美しい。





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