歯車

クリスチーネ・シェーファー
☆ドイツ期待の知性派ソプラノ☆


今回ご紹介するのはソプラノ歌手、クリスチーネ・シェーファーです。久しぶりにドイツに現れた新進ソプラノとしての期待を担い、アルバムも増えてきました。シェーファーの特徴は何といっても知性と気品を感じさせる丁寧な歌唱です。無機的、冷たいとの批評もありますが、聴き手に媚びない、真摯で凛とした姿勢にはとても好感が持てます。正統的なドイツ・リートの後継者であると同時に、最近ではオペラシーンでの活躍も増えてきたようです。映像では「リゴレット」のジルダ役と「後宮からの誘拐」のコンスタンツェ役が素晴らしく、今後の活躍がますます楽しみです。

2002年9月17日、フランクフルトにてシェーファーのリート・コンサートに出かける機会がありました。約4年半振りに聴くシェーファーの生の声はいっそう深みと叙情性を増していました。とりわけシューベルト(エレン歌曲集)は絶品でした。(2002.10.27 Added)

2002年11月、シェーファーの新盤を2枚購入(「後宮」とベルリン・フィル・コンサート)。共にモーツァルト。期待に違わない素晴らしい出来映えで大満足。(2002.12.02 Added)


<映像アルバム>

モーツァルト「ドン・ジョヴァンニ」
Mozart "Don Jovanni" (2006 DECCA)
2006年のザルツブルグ音楽祭のライブ映像。クシェイによる意味不明の演出によって音楽への集中が途切れてしまい、折角のT・ハンプソン(Br)やシェーファーの歌唱が活きてこない(シェーファーの厚化粧も似合わないし(^^;))。それでもドナ・アンナのアリア「私を冷酷と言わないで」でそれまで弛緩していた舞台とオケが一挙に引き締まり最終場面に雪崩込んだところは流石だ。
2002年2月東京リサイタル
初来日時、東京オペラシティで行われたリサイタルをBSで放映。シューベルト、ドビッシー、ウォルフの歌曲からなる。ピアノはここでもアーウィン・ゲージ。とりわけシューベルトが素晴らしい。オペラとは異なり、聴衆との一対一の緊張感が音楽への集中をいっそう高めている。ときには微笑みを交えながら歌の世界へ聴衆を引き込む。透明ながらも圧倒的な存在感を示している。
アルバン・ベルグ「ルル」
Berg"Lulu"
シェーファーを一躍有名にした1997年、グラインドボーンでの舞台映像。好みの作品とは言えないがシェーファーのタイトルロールとなれば観ない訳にはいかない。ここでのシェーファーはジルダやコンスタンツェ、またシューベルトのリサイタルとは全く正反対の、妖艶ともいえる一面を見せる。しかし一方で、現代感覚に研ぎ澄まされたようなノンビブラート歌唱はやはり彼女独特のものだ。
モーツァルト「後宮からの誘拐」
Mozart "Die Entfuhrung aus dem Serail" (2002 Dream Life)
1997年のザルツブルグ音楽祭のライブ盤。シェーファーは多くのプリマドンナが持つ「華」がある訳ではなく、シュワルツコップのような威厳を感じさせる年令でもなく、また演技力で勝負するタイプでもない。にもかかわらず、この凄みさえ感じさせる存在感はどこから来るのだろうか?ここでの彼女はその特徴である正確で凛とした歌唱にモーツァルトらしい柔らかさと温かみを加えた表現で聴く者を惹きつける。
ベルリン・フィル ヨーロッパ・コンサート1999
Europe Concert 1999 (2002 Pioneer)

ポーランド、クラカウのマリア教会で行われたB・ハイティンク指揮によるベルリン・フィル・コンサート。シェーファーはモーツァルトのモテット(K165)とミサ曲(K427)を歌っている。ここでのシェーファーは本来の居場所とも言えるコンサートの場で「歌そのものに表現させる」ことにひたすら奉仕しているようにも思える。こんなにも丁寧で美しく、加えて柔軟で温かみを感じさせるモーツァルトを聴き、見ることの出来る幸せ。他にショパンのピアノ協奏曲第2番とシューマンの交響曲第1番が演奏される。
シェーファー「ワン・ナイト・ライフ」「赤と青の物語」
"One Night Life" "A Story of Red and Blue"(2002 ARTHAUS)
シェーンベルグの「月に憑かれたピエロ」とシューマンの「詩人の恋」をフィーチャーした映像作品(監督 O・ヘルマン)。前者はロックのプロモーションビデオ顔負けの前衛的かつ刺激的な映像。シェーファー自身が無機的なピエロを演じながら幻想空間をさまよう。後者はナイトクラブでのリート・リサイタルの合間にスタッフとシェーファーの会話が挟まれる構成。深く沈んだようなピアノとリートの味わいが素晴らしい。付随のロング・インタビューでのオペラの話、現代音楽の話、このビデオ作品の話も興味深い。
ヴェルディ「リゴレット」
Verdi "Rigoletto" (2001 Opus Arte)
英国ロイヤルオペラのライブ映像盤。小柄で端整な容姿のシェーファーはジルダ役にぴったりだ。リリックな美しい声と丁寧な歌唱で観る者、聴く者たちを魅了する。雄渾な音楽と悲劇的な物語の中でシェーファーの清楚さがいっそうと引き立っている。勿論、ここぞという場面では思いっきり盛り上げてくれる。オペラでは往々にして舞台俳優としての役割を捨て、動きが鈍重な大柄プリマドンナも登場するが、シェーファーは外見的魅力でもその対極にある存在だ(下の写真参照)。今後の作品が楽しみである。(DVD輸入盤)

One Music Triennale Koln 2000 (2001 TDK)
ケルン音楽祭におけるブーレーズとシカゴ交響楽団の近代・現代音楽コンサート。シェーファーはアルバン・ベルグの一部とドビュッシーを聴かせている。ベルグの「ルル」はシェーファー自身がタイトルロール演じ、大きな評価を得た作品だ。出産を間近に控え、マタニティ・ドレス姿での出演。(DVD/PAL盤)
マーラー「交響曲第4番」
BSで放映された1998年2月のS・ラトル指揮によるベルリン・フィル定期コンサート。シェーファーはマーラーの交響曲第4番の第4楽章に登場する。実は自分にとって、このコンサートの場に居合わせたことがC・シェーファーを知るきっかけとなった。小柄ながらも背筋をピンと伸ばし、凛とした姿勢と丁寧な歌声にすっかり引き込まれたのだ。コンサートの後、オーケストラの楽屋を訪ねる機会に恵まれ、演奏直後のくつろいだシェーファーも観察することが出来た。個人的にとても思い入れ深いコンサートとなった。DVDによる発売を期待したい。(ビデオ録画盤)

<CD アルバム>

モーツァルト「後宮からの逃走」
Mozart "Die Entfuhrung aus dem Serail" (1999 Erato)
ウィリアム・クリスティ率いるレザール・フロリサンと1997年に録音された「後宮」。贅肉を削ぎ落としたような古楽器とシェーファーの凛とした歌唱によってとても引き締まったモーツァルトとなった。シェーファーのスタイルは同じ年のザルツブルグでの録画盤と基本的には同じだ(オケの性格は全く異なるが)。共演にテノールのI・ボストリッジ(ベルモンテ)を配した知的センスに溢れるなアルバムである。
シューベルト歌曲集
Franz Schubert Lieder (1997 Orfeo)
CDショップで偶然見つけた輸入盤のシューベルト女声歌曲集。ピアノはここでも盟友アーウィン・ゲージが奏でる。すでにシェーファーを知る者にとってHyperion盤の時のような鮮烈な印象を受けることはないが、丁寧で清潔感溢れる歌に気持ちが安らぐ。とりわけD693、D799、D827、D955等での澄みきった、それでいて柔らかさと深みを感じさせる歌唱が素晴らしい。
ハイドン、バッハ、メンデルスゾーン オーケストラ・アリア曲集
Hydon, Bach, Mendessohn (2001 Hanssler)

シュトゥットガルト・コレギウム・バッハ合奏団をバックにしてのハイドンとバッハを中心としたオーケストラアリア集。ハイドンはまるで極上のモーツァルトを聴くようであり、バッハにもかっての硬質な響きはなく、実に柔らかく丁寧な歌唱を聴かせてくれる。早くも円熟の域にさしかかったような完成度の高いアルバムである。 
リラの花咲く頃 ドビュッシー&ショーソン歌曲集
Debussy&Chausson Melodies (1999 Grammophon)

シェーファーのリリカルなフランス印象派歌曲集。日本人にとっては、叙情的なドイツ・リートに比べると耳慣れているとは言い難いがバックの流れるような美しいピアノと共に新鮮な面白さを味わえる。
ベルリン・ガラ・コンサート
Berlin Gala - Songs of Love and Desire (1999 Grammophon)

アバド指揮ベルリン・フィルによる大晦日恒例のガラ・コンサート・ライブ盤。1997年末はシェーファー、フレーニらを迎えてオペラアリア中心のコンサートとなった。シェーファーはこれまで演じてきたスザンナ(フィガロの結婚)、パミーナ(魔笛)、ジルダ(リゴレット)などを実にのびのびと歌っている。ベルリン・フィルのサウンドも豪華で楽しいアルバムだ。
バッハ 結婚カンタータ他
J .S. Bach Wedding Cantatas BWG210/202 etc. (1999 Grammophon)

ケルン古楽器合奏団との演奏。どちらかというと今はドイツロマン派から現代曲を主なレパートリーとしているシェーファーの珍しいバロックアルバム。オリジナル楽器を使っているにも拘わらず、シェーファーの乾き気味の音質と相俟って現代的なバッハに仕上がっている。
シェーンベルグ「月に憑かれたピエロ」他
Schoenberg "Pierrot Lunaire" (1998 Grammophon)

プーレーズとの共演。シェーファーの澄みきった声が朗読と楽曲との微妙な境界域へと誘う。ここでは、現代音楽を「理解」しようとする試みは無意味だ。テキスト片手にアルベール・シローの詩宇宙に浸ろう。

モーツァルト・シュトラウス オーケストラ曲集
Mozart&Strauss Orchestra Songs (1998 Grammophon)

アバド/ベルリン・フィルとの共演。国内で発売されているシェーファーのアルバムの中では最も親しみやすいアルバムだろう。モーツァルトではとても柔らかく伸びた声を聴かせているが決して媚びていない。R・シュトラウスはもともと彼女にぴったりの作品でオーケストラ共々美しく聴かせる。この組合せによる「四つの最後の歌」の録音を心待ちにしているのは私だけだろうか?
シューマン歌曲集(1)
The Songs of R. Schumann-1 (1995録音 Hyperion)

シューベルトと同じHyperion Recordによるシューマン歌曲集。ロマン情緒の中に沈んだような深い味わいに浸ることが出来るが決して表現主義には流されていない。明るいメロディであってもしっかりと陰翳を残すあたりは知性派シェーファーの面目躍如だ。シューベルトのアルバム同様、ここでもミニョンの曲を聴くことが出来るのが興味深い。(輸入盤)
シューベルト・エディション No.26
TheHyperion Schubert Edition-26 (1994-5 録音 Hyperion)
イギリスのHyperion Recordが進めているシューベルト歌曲全曲録音集の一部。シェーファーはこの巻で20曲中8曲を受け持っている。シューベルトの素朴なメロディに乗せてシェーファの澄みきった声が響く。とりわけ、ゲーテの詩に基づくミニョン歌曲群が清潔感に溢れ素敵だ。(輸入盤)




ヴェルディの歌劇「リゴレット」でジルダを演じるシェーファー。激情さも要求されるイタリア歌劇のヒロインを毅然と演じ、歌いきっている。




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