歯車

ブリューゲルの不思議な世界
16世紀フランドル地方の民衆画家


16世紀フランドル地方の画家、ブリューゲルは実に不思議な作品群を遺しています。私が最初にブリューゲルを知るきっかけとなったのは当時傾倒していた作家、野間宏の「暗い絵」という作品によってでした。その小説は「草もなく木もなく実りもなく、吹きすさぶ雪嵐が荒涼として吹き過ぎる・・・」と、ブリューゲルの画集の描写から始まっています。戦争という暗く、重い時代を背景としながら、自らの生き方を懸命に模索し苦悩する若者たちの姿を描いた誠実な作品です。

そもそも私は絵画に対して何らか知見やら知識を語れる立場にはないのですが、それでも、ブリューゲルに対しては一種独特の思い入れがあります。本物のブリューゲルとはブリュッセル、ウィーン、ニューヨークの美術館でそれぞれ対面しました。そのいずれもが忘れ得ぬ感動的な体験でした。下の挙げた作品の中では、いつの日にかプラド美術館所蔵の作品を見られる日を楽しみにしています。

尚、ブリューゲルについてはすでに多くが書かれ、あるいは語られています。その代表的なものは中野孝次の「ブリューゲルへの旅」(河出書房)でしょう。私もこの随筆集によってこの不思議な世界へと誘われれました。

<注>画像はインターネト上で見つけたもの、あるいはブリュッセル王立美術館で購入した画集をデジカメで撮ったものです。念の為、いかなる版権にも抵触しないよう、画像は360x270ピクセルに落としています。


天使たちの反逆(ブリュッセル王立美術館)
ここ登場する怪物たちの姿にはブリューゲルのひと世代前に一世を風靡したボッシュの影響が強く残る。上方から容赦のない攻撃をしかける天使たちと必死に抵抗する怪物たち。姿、形はグロテスクであっても、必死に生きようとする怪物たちにもいつの間にか共感を覚えてしまう不思議さ。いったい、僕らはどちらの側に属しているのだろう?
死の勝利(プラド美術館)
ブリューゲルの作品の最大の面白さはその細部にある。次から次へと押し寄せる骸骨の群れに絶望的な抵抗を試みる人間たち。この何とも不条理な世界のあちらこちらで、何と多くの残酷でグロテスクな行為が繰り広げられていることだろうか。
狂女フリート(アントワープ美術館
現わされているのは狂気なのだろうか、それとも戒めなのだろうか?怪物たちの侵入によって阿鼻叫喚に陥った村から鍋やフライパンまでを持ち出すフリート。何ともアナーキーで不思議な世界である。ある解説によれば「これらの怪物は様々の罪を表現している」らしいのだが・・・。
イカルスの墜落(ブリュッセル王立美術館)
何ともとぼけた作品だ。右の帆船の手前に小さな足が見えるだろうか?太陽に向かって飛び、やがてその熱で海に墜落したイカロスが足をばたつかせている。手前では畑を耕す農夫、羊飼い、釣り人たちが何事も無かったような平和な営みを続けている。
バベルの塔(ウィーン美術史美術館)
壮大な無駄ともいえるバベルの塔。この作品も細部の面白さに惹かれる。よくよく観察すると工事に携わる一人一人の姿まで描かれているだけでなく、工事手法も面白さまで見えてくる。ブリューゲルのこの絵そのものも一種のバベルなのかもしれない。
ネーデルランドの諺集(ベルリン国立美術館)
画面狭しとネーデルランド地方の沢山の諺がユーモアたっぷりに描かれている。いったい幾つあるのだろう?ざっと数えてみると約50はありそうだ。「豚にバラの花」「遠く離れたパンを二つ同時には掴めない」といった分かり易いものもあれば、どう考えても意味の掴めないものも多い。見なおす度に新しい発見もあり、いつまで眺めていても飽きない。
子供の遊び(ウィーン美術史美術館)
諺集と対のような作品で、16世紀フランドル地方のさまざまの子供の遊びが画面いっぱいに描かれている。馬飛び、馬乗り、お手玉、駒廻しと私たちに馴染みの遊びも多い。勿論、TVもパソコンもない時代・・・子供たちはこうして外で元気に遊んでいた。
農夫の結婚式(ウィーン美術史美術館)
この頃のブリューゲルは農村の生活を好んで題材にした。農家の結婚式の模様を暖かい筆致で描いている。テーブルの正面に座る花嫁の存在はすぐに判るのだが、いったいどの人物が花婿なのかが謎と言われている。
麦刈り(メトロポリタン美術館)
ブリューゲル季節画のひとつ。全12枚のシリーズのうち5枚が現存しているとのこと。この「麦刈り」は8月。フランドル地方の自然とそこに生きる逞しくも素朴な農民たちを愛情をもって描いている。
雪中の狩人(ウィーン美術史美術館)
ブリューゲルの作品中、もっとも有名な絵ではないだろうか。ポスターなどで見かけることも多い。それにしても、これが、あの怪奇作品群と同一作者の作品か?
この作品も季節画シリーズのひとつで1月を代表している。獲物も無いままに、ようやく猟から戻った狩人たちが自分たちの村を俯瞰できるところまで帰ってきた。落ち着いた色彩と画面構成が自然の中での生の営みを静かに訴えてくるようだ。ウィーンの美術館でこの絵と向き合うことが出来たときの感激は忘れられない。




私の持っているブリューゲルの画集もすでに20年、かなりボロボロになってきました。それでも、ブリュッセル王立美術館で手に入れた大型(A3版)の画集は何にも換えがたい財産です。しかし、この画集をもってしても、拡大鏡は必需品です。ブリューゲルの絵では、全体のみならず、細部にこそ多くの面白さが潜んでいます。見るたびに新しい発見があります。皆さんはブリューゲルの絵に何を発見されましたか?




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