〜コラム番外編〜 私的ライブレポート


「十番勝負 喧嘩上等」2000.3.28 at CLUB Que
HAL FROM APOLLO'69 vs THE JELLY LEE PHANTOM
2000.4.3


注)  面倒なので文中ではHAL FROM APOLLO'69のzoё氏を「zoe」と表記しています。



2000年3月28日。
午後から降り出した雨は、強くなる気配こそないが一向に止みそうもない。
雨が降るのはわかっていたのに、傘を忘れてしまった。
仕方なく、学校を出るときに研究室にあった傘を借りてきた。
ただのビニール傘なのに、借り物であるというだけで何故か後ろめたいような、申し訳ないような気持ちになってしまうから不思議だ。

下北沢。
生まれてからずっと東京に住んでいるが、この街にはほんの数えるほどしか来たことがない。
だから不慣れである。でも、この街の雰囲気は好きだ。
適度な狭さ。洗練された空気と垢抜けない空気が微妙なバランスで混在する街。
自分の肌に合っているのかもしれない。

午後6時。
少し早く着いてしまったようだ。
CLUB Queの開場までにはまだ余裕がある。
とりあえず少し歩いてみようか。

HALのライブを見るのはまだ2度めである。
前回は自分自身がまだライブというものに不慣れであり、また
HALを好きになって間もない頃であったのでただただ圧倒されただけであった。
HALにとっても、4人編成になって最初のライブ。
今日、僕はちゃんとついていけるだろうか。
今回はHALファンの人たちとも会う。ネット上で会話はしていても、実際会うのは初めてである。
自分は受け入れてもらえるのであろうか。一抹の不安がよぎる。
ライブ自体も久しぶりである。しかも、Queは初めて。
ライブに対する期待が膨らむ一方、不安も頭をもたげてくる。
あまり考えるとナーバスになってしまう。深く考えるのはよそう。

気がつくと、開場15分前。Queへ急ぐ。

ほどなくして入場が始まる。
待ち合わせをしていたHALファンの一人と落ち合う。
余っていたチケットを引き取ってもらうことになっていた。
チケットを渡し、一緒にQueへと続く階段を下っていく。

会場に入ると、すでにかなりの人がいる。
どうやら、入ってすぐのところにHALファンが集まっているらしい。
ネット上で見たことのある名前で呼び合っている。
声をかけてみる。僕の心配を他所に、初対面の僕をすんなり受け入れてくれた。
同じ音楽が好きである、その事実があればいいのであろう。
話をしながら、開始を待つ。場所はステージ右側、zoeの正面。

ステージ上、zoeのポジションにはエクスプローラーとフライングV。
HALではVは弾かないと言っていたが、封印は解けたのか。
足下には数多くのエフェクター類。

期待と不安が入り混じったまま、ゆったりと時間が過ぎていく。
今日のステージでは何が起きるのだろうか。

会場が暗くなる。そしてSE。
始まり。
否応なしに緊張が走る。自然と精神は昂っていく。
メンバーの登場。zoeはVを手に取る。
アニキのベースが音を刻み始める。ああ、このベースラインは…
DRAGOON。
zoeのギターが空間を支配し、halの無機質な視線と声がオーディエンスに突き刺さる。
オープニングナンバーだというのに、早くもテンションは頂点に達する。
自然と体がリズムを刻んでいく。
曲順は覚えていない。新曲もあったようだが、冷静に聴いている余裕はない。

暫しのブレイク。
zoeがエクスプローラーに持ち替える。
halは拡声器で「HAL FROM APOLLO'69、HAL FROM APOLLO'69…」と繰り返す。
あくまで機械的に、ただただ淡々と…

再び演奏がはじまる。
頭の中は真っ白である。考えている暇はない。
HALの音楽を全身に浴びることで精一杯。
前に見たときより、メンバーが大きく感じる。

ライブ告知。MCはこれだけ。
そう、今日のライブはJELLY LEE PHANTOMとの喧嘩なのだ。
真剣勝負に、余計な言葉は不要である。

一気に終盤へと雪崩れ込む。
すでにHALとオーディエンスはシンクロしている。
そして。
BACKFIRE SHUFFLE。
個人的に最も好きな曲だ。
すべてが一体化していくような高揚感。HALの思うつぼだ。
zoeが人指し指を立てる。あと一曲、ということか。
halが水を自分の体にかけ、ボトルを客席へと投げる。
SLINKEE。
この一曲が終わったら、現実世界に引き戻されてしまうのか。

テンションが最高潮になったオーディエンスを残し、HALは去っていった。
夢が覚める。余韻はまだ残っている。
充足感と喪失感の入り交じった、例えようもない気分。
この充足感を得るためには、喪失感を補うためには、またHALを見に来るしかないのであろう。

スピーカーからはThe Clashが流れている。「白い暴動」をそのまま流しているようだ。
ジンジャーエールで喉を潤し、気持ちを落ち着ける。
この後はJELLY LEE PHANTOM。
彼らも一度見たことはある。いいバンドであると思う。
CD等は持っていないので詳しいことなどはわからない。
しかし、今が旬なバンドであることは確かであろう。
今日の喧嘩も彼らが仕掛けたものなのである。

再び会場が暗くなる。
JELLY LEE PHANTOM登場。
安定したドラムとベース。
その上に乗ったひさしの個性的なボーカル&ギターとパフォーマンス。
そして、それ以上に個性的で独特な鮎子のキーボード。
HALとは全く違う世界の音楽。
やはり注目は鮎子。キュートなルックスと、鍵盤上を駆け巡る指遣いに釘付け。
ひさしのパフォーマンスは相変わらず変態的なほどのアクの強さ。
オーディエンスもノっている。飛び跳ね、歌い、踊っている。
前に見たときよりもパワフルになっている。全国ツアーで鍛えられたか。
このバンドは要チェックだ。改めてそう感じた。

ライブは終わった。
さっきまでの興奮が嘘のように、オーディエンスは帰り支度をはじめている。
しかし、その表情は一様に満足げである。
沢山いたHALファンも気付けばかなり少なくなっている。
そろそろ帰るとしよう。

外に出る。雨はかなり弱くなっている。
やはり耳がおかしい。しかし心地よい。ライブの醍醐味。

今日の喧嘩に勝負はついたのだろうか。
HALとJLP、方向性が違う。直接の比較はできない。
まあ、聴く側には関係ないのかもしれない。
JLPのひさしも言っていた。オーディエンスはただ楽しめばいい、と。

午後9時半。
道ゆく人達はみな駅へと向かっている。
この中に、ライブという同じ時間を共有した人が随分いるのだろう。
終わってしまえばそれも無に帰するのか。
これもある意味一期一会といえるのかもしれない。

下北沢駅。
駅はそれほど混んではいない。
新宿行きの小田急線も空いている。
今日のライブを反芻している自分に気付く。
まだ余韻は消えていない。
借り物の傘も、もうあまり気にならない。
また来よう。HALに、HALのファンに会いに。

新宿駅は相変わらずの混雑ぶりである。
ここから先はいつも通りの現実が待っている。
消えかけている余韻を惜しみながら、僕は雑踏の中に埋没していく。



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