私的ライブレポート


「元ちとせ 1万人のフリーライブ
2002.6.2 at 代々木公園
元ちとせ


2002年6月2日。

6月になったとたん、急に暑くなった感じがする。
今日も午前中は日ざしが強かった。
午後からは少し雲が出てきて、暑さも少し和らいできた。

元ちとせ。
日本の音楽シーンに、まさに彗星の如く現れたボーカリスト。

メジャーデビューシングルは近年稀に見るロングヒットとなり、とうとうチャート1位を獲得するまでになった。セカンドシングルも順調な滑り出しで、現在2曲ともトップ10圏内をマークしている。

そんな彼女が、フリーライブを行う。
応募してみたら、優待ゾーンのチケットが手に入った。

元ちとせを初めて聴いたのは、昨年の8月。
HMVで何の気なしに試聴してみた「コトノハ」。
何となく、惹かれた。その場で買った。
幻想的で、浮遊感のある声と楽曲に、引き込まれた。
ちょうどその週末に行われた、横浜HMVでのインストアライブも見た。

その時点で良いと思ったのは事実だが、これほどまでに売れるとは予想できなかった。
大ヒット中の「ワダツミの木」にしても、大掛かりなプロモーションとは無縁だ。
CDショップ店頭では積極的に展開していたが、それだけである。

日曜ということもあり、原宿駅は混雑している。
ワールドカップ期間中であり、海外からの観光客とおぼしき人も多い。
代々木体育館内ではナイキ主催のイベントも開かれているようだ。
橋の上たむろしているビジュアル系集団も、いつもより多い気がする。

代々木公園では、エコロジー関連のイベントが開かれている。
低公害車のコーナーを中心に、しばらく見る。
環境問題への関心を高めるという観点から、こういったイベントは重要だと思う。
ただ、どうも各出展団体/会社の単なるPRの場というか、展示会になっている感じがする。
焦点がぼやけてしまっている。
環境問題は地球規模で急を要する問題であるのだから、もっと見ている側に問題提起していく必要があるのではないかと思う。

開演30分前。ライブ会場に入る。
すでに多くの人が集まっており、優先エリアの中では後ろの方になった。
代々木公園名物、アマチュアバンドのストリートライブの音も聞こえる。

16時を少し過ぎた頃。
MCを務めるのは、FMのパーソナリティである田邉香菜子。
元ちとせのプロフィールや、今日のライブの注意事項などを話し、ステージを去る。

やや間があいて、いよいよ登場。

パーカッション、藤井珠緒。
ギター、間宮工。

そして、蒼いドレスをまとい、三線を抱えた元ちとせ。

まず、三線の弾き語りで、奄美の島歌「糸繰り」を披露。
圧倒的な存在感。この島歌が底辺にあるから、彼女の歌はこれほどまでに独特なのであろう。
この手の音楽には全く疎いのだが、素直に聴けてしまう。

三線をスタッフに渡す。
そして、流れてくる特徴的なイントロ。
コトノハ
テープで流れるリズムセクションとコーラスに、生演奏のギターとパーカッションが加わる。
心地よい風が吹き抜け、彼女のドレスが風になびく。

僕にとって、元ちとせはこの曲の印象が強い。
踊るようにリズムを刻みながら歌う。

間宮工のギターに導かれて始まる曲、Little Wing
Jimi Hendrixのカバーであるが、アコースティックにアレンジされている。
島歌とブルース、根底にあるものは同じ。そう感じる。

MC。楽しそうなちとせ。
大観衆に呑まれているという感じはない。
本当に、歌うことが好きなのだろう。

Sugarcubesのカバー曲、Birthday
ビョークに勝るとも劣らないほどの個性を持った声。
完全に、自分の歌として歌い上げてしまっている。

竜宮の使い、ミニアルバム「コトノハ」においてアクセントとなっている曲。
お伽話のような曲。そして、彼女の柔らかい歌声は子守唄のよう。

精霊。この曲は、自然へのリスペクト。
曇り空に、代々木公園の緑の中に、彼女の声が響く。

MC。メンバーの紹介。
気のおけないメンバーに囲まれ、あくまでも自然体なちとせ。
飾らない、素朴な感じも彼女の魅力の一つ。

幻の月
彼女の伸びのある声を堪能できる名曲。痺れる。個人的に最も好きな曲。
「雨が降る前の 匂いを嗅ぎました」
この歌詞に誘われるように、天からは小雨が降り始める。

曲間、スタッフに向けて空を指差す間宮工。
ステージには屋根があるが、そこからでも雨が確認できるのだろう。
機材に雨避けのシートを掛けはじめるスタッフ。

ワダツミの木

元ちとせという名前を、一般に知らしめた曲。
ギターとパーカッションだけのシンプルなアレンジに、彼女の声が活きる。
雨は少しづつ大粒になるが、これ以上強くなる気配はない。

MC。新曲の話題。
作曲を担当したハシケンがギターを抱えて登場。
さらに、アコーディオンのライオンメリィが加わる。

アコーディオンの音が印象的な新曲、君ヲ想フ
比較的アップテンポな曲調、元ちとせ自身による思い入れたっぷりの詞。
ちとせの歌声も、バンドの演奏も、観客のテンションも最高潮に達する。

歌い終わる。
雨も止んだ。

「ありがとうございました〜」
明るくそう言い、ステージを後にするちとせ。

鳴り止まない拍手。
そして、バラバラだった拍手のリズムが除々に一つにまとまっていく。

再びステージに現れたちとせに、静かではあるが大きな歓声。
メンバーは、パーカッションの藤井珠緒のみ。

無伴奏で、名前のない鳥を歌いはじめる。
CDでは山崎まさよしのギターが印象的なこの曲を、自分のリズムで歌う。
無伴奏のまま、1コーラスを歌い切る。そこからパーカッションが加わる。
雲の隙間からは薄日が差し込む。

観客に向けて、スタッフに向けて、今日のライブのお礼を言うちとせ。
でも、むしろお礼を言いたいのはこちらの方である。
これだけの素晴らしいステージがフリーライブなのだから。

会場の隣はテニスコートなのだが、そこから覗き込んでいる人も随分いる。
会場外の人にも、彼女の声は届いているのだろう。

ステージ上。間宮工、ライオンメリィが再び登場。
最後の曲、おやすみ
優しい、温かい曲。
静かな熱気が、序々に落ち着いていく。
もう終わりなんだ、という寂しさと、いいステージを見られた満足感。

惜しみない拍手に包まれ、ステージを後にするちとせ。

MCの田邉香菜子がステージに上がる。
今後のちとせの予定、退場時の注意などを説明。

1万人のフリーライブ、しかし集まった観客は優に1万人を超えている。
その巨大な集団が、少しずつ会場を後にする。
誰もが、穏やかで満足げな表情。

会場を出て、渋谷方面に向かう。
さいたまスタジアムでイングランドの試合があるせいだろう、警官が非常に多い。
駅周辺は機動隊の車で固められ、厳戒体勢である。

ワールドカップを見に来た海外の人達にも、ちとせの歌声を聴いてほしい。
彼女こそ、日本が世界に誇れる歌姫であると思う。
今日、その想いは、確信へと変わった。





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