赤旗2000年4月16日付(日曜日)

苦しみは一人では背負い切れない

  おとなになっても仕事につかず、自分の部屋に閉じこもったまま家族とさえ口を聞こうとしない「社会的ひきこもり」といわれる若者たち。社会的ひきこもりとはどういうものなのか、どうすれば社会に出て行けるようになるのか探ってみました。

(菅原久仁栄記者)

目次)
家の中には、いつも電流が…
ひきこもり親の会
単なる個人の病理ではない
精神科医など専門化に相談
公的援助が乏しい現状で
寄り添える支援が大事

 

家の中にはいつも
”電流が通って・・・・・”

 

息子が引きこもって五年

「夜中の一時ごろ、パトカーで警ら中のお巡りさんが来て『ご近所からお宅で大きな物音がしたと110番がありまして』というんです。私は雨戸を閉めたとき大きな音がしたこと、息子が昼間家にいるので近所の人が心配して通報したのではないかと訴えましたがショックでした」

話してくれたのは、ひきこもって五年目に入る息子・祐介さん(二一才)のいる山下洋子さん=福祉職。

 

 きょうだいの真ん中で育ち、中学時代はバレー部にも所属した明るく、友達も多かった祐介さん。歯車が狂い出したのは、希望の高校に仲間の中でひとりだけ落ちてからでした。入学したのは授業も成り立たない「荒れた高校」でした。だんだん朝起きられなくなり、「おれは低血圧」「食堂はどんぶり物ばかりで気持ち悪い」と週に一回程度休むようになり、二年の秋に退学。

 その後、一年ほどは中学時代の友人と遊びにいっていた祐介さんですが、それも途絶えると一歩も外へ出なくなってしまいました。

 昼間寝て、夜になると、自分の部屋で音楽を聴いたりじっとテレビを見たりする生活。お風呂に三時間も入ったりします。食事は自分で作っていましたが、最近は親が食べているそばで親が作ったものを食べるようになりました。

 「夫も私も勉強のことでとやかくいったことはなかった。高校は行った方がいいといったぐらい。先生の言うことをよく聞くいわゆる”いい子”でした。管理の下で安心して生きてきたので、そんな高校でどうしたらいいのか分からなかったのでは」と洋子さん。「家の中は電流が通っているようでした。息子の顔はこわばっていて心の中がおだやかでないのかみてとれるからです。仕事に行っている間は子どものみじめな姿を見なくてすむし、逃げにもなっていますが、帰宅時間になると、ああきょうもこういう生活が続くんだと思うんです」

 

 洋子さんは「ひきこもり親の会」に入り民間のカウンセリングに通っています。相談員や若者たちの家庭訪問も受けました。「問題からに逃げていた」夫が先日、祐介さんを理髪店につれていくなど、ようやく夫婦で問題にむきあえるようになりました。

 洋子さんは言いました。

 「ああなったのは親の責任なんだから、私たちが解決しないとという思いが私の中にもまだあります。ただ五年も続いているので親の力でという段階ではない。あの子はどうなるんだろう、定年も近いし、もう後がないという思いです」

*名前は仮名です。

 

社会的ひきこもり
単なる「個人の病理」ではない

斎藤環(さいとうたまき)さん(爽風会佐々木病院精神科医師)の話

 

 社会的ひきこもりは、一九七〇年代後半からじわじわと増えてきています。二十代後半までに問題化し、六カ月以上を自宅に引きこもって社会参加をしない状態が持続しており、他の精神障害がその第一の原因とは考えにくいものを言います。

 人格発達の途上におけるある種の未熟さゆえに起こってくる問題と考えられ、いじめや学業不振、受験の失敗など何らかの挫折がきっかけになっています。不登校が問題のはじまりなっている人が圧倒的です。

 いったんひきこもると、生活は昼夜逆転し、家族との接触も避けようとします。いつか自力で立ち直るという意識が強いために、決して人に助けを求めようとはしません。場合によっては葛藤(かっとう)や焦燥感から家庭内暴力や自殺未遂をひきおこす例もあります。

 

精神科医など専門家に相談

  「社会的ひきこもりは、崩壊している家庭ではなく、平均的な家庭で多く見られます。

この問題は、日本の社会的病理とも深いかかわりがあるようです。

 まずは親子の共依存の問題です。早い段階で自立を促すアメリカと違い、日本では大人になっても親と同居し、情緒的にも依存し合う場合が多々あります。

親が思春期前の子供とのかかわりを引きずり、子どもの自立を妨げてしまうんです。日本では、成人した子どもが何か問題を起こした場合でも、親は私の育て方が悪かったと謝罪しますね。これは社会全体の考え方でもあります。

 ひきこもり状態の子供を持つ親が、だれにも相談できず、近所の目をはばかり、自分たちだけで抱えこもうとしてしまうのもそのためなのです。

 また、自分の適性を正確に見る力が育たないだけではなく、当然。人間の長所や短所を互いに認め合い、人間的なつきあいができるようにしていくことを軽視している今の教育の問題もあるのではないでしょうか。

 ではどうすればいいのか。まず言いたいのは、親が叱咤激励したり、お説教するのはよくないということです。あせらず、本人の人間的な成熟を、ゆっくり伴走しながら待ち続けることが必要です。「社会的ひきこもり」は自然には治らないので、いつか治るとそのままにしておかなく、精神科医やカウンセラーなどに相談することも重要です。これは、わずかな状態の変化に一喜一憂せずに長期的な展望を持つためにも必要です。

カウンセリングを受けたり、同じ悩みを持つ人と対話することで状況が良くなった例も多く見られます。

 

公的な援助が乏しい現状で

 

 子どものことは母親任せだったような家庭では、夫婦でよく話し合い、父親もいっしょに問題に立ち向かうようにして欲しいですね。もちろん、本人ともコミュニケーションをとってください。親子間で冗談を言いあえるような、つまり密着しすぎていない関係がよいと思いますそしてひきこもり状態が長期化し、親が高齢になって先を心配しても、焦って本人「もう長くない。いつか一人になる」などというのは良くありません。財産などに付いては具体的な数字をあげて話すことが必要なのではないでしょうか。

 「社会的ひきこもり」は治療的対応が可能なのに、医師や治療機関、公的機関などの援助は依然として乏しいのが現状です。親が相談にいっても「子どもがこないとだめ」という病院もあります。もっと親が相談できる場、本人が社会にでていけるように援助していける場をつくり、それを支援していける社会的な体制、相互の連携が求められています。

 

苦しんでいる若者と親

寄り添える支援が大事

 

一九九〇年に社団法人になった青少年健康センター(東京都・文京区)は、社会的ひきこもりなど思春期の問題にとりくみ、社会参加に向けた援助活動を、医師・心理・教育・社会福祉などの専門家の力を結集しておこなっています。

 悩む若者とその家族のために、電話、手紙、インターネットによる相談、訪問相談、ウェルネスキャンプ、短期宿泊療法、若者クラブなど、再び社会参加するためのプログラムを提供しています。

 関連団体の一つで八五年に発足した「支援の会」は思春期を悩みつつ生きる子どもを持つ親たちの会です。

 同会代表で、センター理事の白川恵一さんは、「問題解決には家族のとりくみが最も重要です。だからこそ同じ悩みを抱える人たちの交流の場を持ち、専門家や専門機関からの指導や援助が必要です」と強調します。

 専門家による恒例のグループ指導「家族グループカウンセリング」など、すべての活動は会員たちが発案したものです。

 「親はみんなうちの子だけなのではと思い、つきとめられない原因探しをしたりして苦しんでいます。会に参加すると、悩んでいるのは一人でない、みんなと同じような経過をたどっているんだと分かって心強い」と白川さん。

 最近は、父親や夫婦そろっての参加も増えてきました。

 「支援の会」に参加し、世話係もしている山吹和子さん(仮名)は「自分だけでないとわかりほっとしました。家であったことや、愚痴などを話し合ったり、治療についての感想も語りあえる。一人だけで悩んでないで、みんなで励ましあって力にしていきましょうと言いたいですね」と話します。

 学校や職場にいけず、家に閉じこもっている若者が集う若者クラブには現在約四十人が参加。週二回各二時間、スタッフとゲームや散歩、ソフトボールなどもおこないます。春と秋にはキャンプにも行きます。時にはスタッフを自分の方に引きつけようとして他のメンバーから受け入れられなくなったり、逆に相手に合わせようとして疲れてしまったりすることはありますが、スタッフは、常に精神科医と連携し、適切な対応をはかるので、本人が孤立するようなこともありません。ここが安心できる場だとわかると人との関係をつくっていけるようになります。

 同センター事務局長の監物(けんもつ)一夫さんは「はじめのころはうつむいて、スタッフと目線を合わせられなかった新メンバーが、しばらくクラブに通ううちに声が出、あいさつを交わせるようになっていくんです。おはようというと『おはよう』とかね。そうするとおかしな言い方だけど卒業も近いなと思うんです。うれしいですよ」とほほえみました。




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