平成12年8月19日ASG夏期公開セミナー

算数の基礎・基本って,なあに?

新潟大学教育人間科学部附属新潟小学校 教諭  間嶋 哲

1 よ〜く考えると,分からない基礎・基本  

 昨年度,私が研究会にて授業をした後,愛知県の先生から,次のような質問を受けた。
 「ところで,今日の授業の『基礎・基本』って,なんですか。」  
私は,「家で例えれば,基礎は土台,基本は柱のようなものです。だから,今日(当日は,2年かけ算の発展)ですと,基礎は
九九そのものですし,基本は,九九表からきまりを見付ける力のようなものです。」と答えた。

 今現在,そんなことで間違いはないと思っているが,正直,その時,明確に『基礎・基本』を意識していなかった。

 本年度,ある時,当校の養護教諭が次のようなことを話題にした。
「基礎と基本って,違うんですか。私は,へんだと思うんですけど…。」
 この話題は,教頭に飛び火し,私の所にも飛んできた。分けて考える人もいることを伝え,その後,調べてみた。すると,
分けて考えること自体にあまり意味がない
ことが分かった。(これは,『楽しい算数の授業182』p64片桐重男氏の論文にもある。) 

 それにしても,分かったようで分からない『基礎・基本』。この機会に,考えてみることにした。

2 文献から各氏の考えを拾う                   線は間嶋

 古藤 怜氏

 「すなわち,『基礎・基本の確実な定着』を図ることのねらいは,一人ひとりの子どもの個性を生かすためにおかれていると解釈する
 べきであろう。」      (楽しい算数の授業182,p4)  

 吉川成夫氏

 「基礎・基本を議論するとき,ある一部にかたよらないで,様々な資質や能力の育成を図っていくというバランスのよい指導観や評価観
に立つ必要がある。
」(算数教育504巻頭提言)

 杉山吉茂氏 

 「日常生活に必要最低限の知識・技能ではなく,数学を獲得,創造するために役立つものを基礎基本としたい。」(算数教育503,p9)

 田中博史氏 

 「…基本(前段では「問う力」と言い換えている。)は先の活動を推進していく力であり,基礎はこの活動に付随していつも役立てられて
定着していくものだと言うことができる。だから基本の力はいつも活動の中で成長していくことを望んでいるが,基礎はそれ自体は成長し
ていくものではない
と考えると,基礎と基本の区別の新しい視点にもなるだろう。」       (算数教育503,p25)

 小島 宏氏

 「『基礎』とは,数を数えられること,計算ができること,量の大きさを計測できること,図形を弁別したり作図したりできることなど,知識
や技能など内容にかかわっている
。(中略)『基本』とは,測定の原理,加法や乗法の性質,記数法や計算の原理,ものの考え方として帰
納的な考え・類推的な考え,演繹的な考えなど,どこまでも貫いていく本質的なもので数学的な見方・考え方などに当たり絶対的なもので
ある。」 (楽しい算数の授業182,p14)

3 結局,基礎・基本って何なのか?

  二つの言葉を区別するのかしないのかという議論は置いておく。なぜなら,そのこと自体に意味はなさそうだからである。要するに,
基礎基本には大きく二つあると考えてよい。

  一つは,これまでの知識・技能である。ただし,今後行う学習において必要とされるであろう知識・技能である。 これは,ASGのいう,
「問題の解決に必要な知識・技能」にあたる。
 もう一つは,要するに数学的な考え方である。 ASGのいう「数学の方法に関する数学的な考え方」にあたる。

  ここまでは,納得である。

  さて,ASGではもう一つ「表現力」をあげている。基本的に,こうした提案には大賛成である。理由は,二つある。

  一つは,「数学的コミュニケーション能力(この言葉の中には,(数学的)表現力と,表現されたものをよみ取る力が含まれている。)」
そのものが,アメリカやイギリスでは,すでに数学教育の目標となっているからである。
  もう一つは,表現力の育成なくしては,算数を創り上げていくことはできないからである。表現力に乏しかったなら,どうなるか,想像
すれば簡単である。自分が考えたことが相手に正しく伝えられない。 すると,相手は,その考えのよさを正しくとらえることができない。
 つまり,考えのよさの共有ができないのである。これでは,算数を創り上げていくことなどできず,教師からの「お下げ渡し」的な授業に
なるのは当たり前である。

4 ただし…

  ASGの考える基礎基本に,何か不十分さを感じる。言葉ではうまく言えないが,「今後の学習をリードする意欲,態度あるいは,学び
方」のようなものである。活動そのものといってもよい。これらが抜けているような気がするが…。

5 提案されている手だてを考える視点

 まず,それぞれのVTRでの,手だては何なのか,しっかりと見ることが肝心。

 @ 「問題の解決に必要な知識,技能」

   ア 既有知識の「割合」の考えを,どう「比」に結びつけているか。
   イ 「割合」の表し方と「比」の表し方の相違を,どう意識付けているか。
   ウ 本時で身に付ける「比」の表し方は,今後,使われていくか。

 A 「数学の方法に関する数学的な考え方」

   ア 本時で身に付ける「方法に関する数学的な考え方」とは何か。

         ※方法に関する数学的な考え方には,次のものがある。(『数学的な考え方の具体化p128より』  
         @帰納的な考え方 A類推的な考え方 B演繹的な考え方  C統合的な考え方 D発展的な考え方 
       E抽象化の考え方
 F単純化の考え方 G一般化の考え方 H特殊化の考え方  I記号化の考え方 

  イ グループでのコミュニケーションは,何を促すか。

  ウ 何から,目指す姿が生じるか。

 B 「表現力」  

  ア どんな表現力を伸ばそうとしているのか。

  イ そのための手だてが,いくつちりばめられているか。

6 私が考える基礎・基本   

考える力  

  ・筋道立てて考える力

  ・論理的な思考力

パターン認識する力  

  ・計算の力

  ・既習経験を思い出す力     

 数学的コミュニケーションの力

 ・数学的表現力 

 ・数学的な表現をよみ取る力

数学的な感性

  ・美しさを感じる経験

  ・算数の楽しさを感じる経験  

7 基礎・基本をきちんと身に付けさせるための手だて

 授業を変える,そして,テストも変える  

  授業を上の四つの視点からとらえた基礎・基本の視点からバランスよく行うことが大切である。ただし,授業であれもこれもと
欲張りすぎてはいけない。
  私は,普段の授業では,「考える力」を,授業以外のちょっとした時間には,「パターン認識する力」を,自分の研究としては「数
学的コミュニケーションの力」にウェイトを置いている。当然,「数学的な感性」の部分は,常に大切にしている。  
  授業では,提案授業の通り,子どもに考えさせる部分を作ろうとしている。このへんは,きっと誰でもそうしていると思う。特に算
数を研究されている先生方は…。

 しかし,単元のテストは,どうであろう。

  私は今年度から,ワークテストをやめた。附属新潟小学校の6年生2クラスは,一切,あのカラフルなテストをしていない。なぜか。
一言でいえば,あのテストでは,授業で行ったことが正しく評価してあげれないからである。
  確かにワークテストで,知識・技能は見れる。しかし,数学的な考え方を見ることはできるのだろうか。ましてや,関心・意欲・態度を
見ることなどできるのだろうか。私は,後者を見るために,時々,算数作文を書かせる。
 文章題があるとする。これはほとんどの場合「数学的な考え方」のカテゴリーに入る。 式化できることが「数学的な考え方」であろうか。
全く理解できない。