ロゴ

★トップページへ
★解剖生理トップページへ

猛禽の外部形態

(2003年6月25日掲載、同8月18日更新)

 猛禽が手元にやってきて、「いざ応急処置」、「しばらく保護収容」となったとき、体の構造の基本的な知識がどうしても必要です。獣医師ならきちんとしたカルテを書くにも、「この傷んでる羽は、どう呼ぶのだろう?」では困りますし、また、保護収容中にどのような部位に注意を払えばよいかを知っているのと知らないのとでは大違いです。ここではそんな時に役立ちそうな外部形態についての基礎知識を、救護時のポイントも交えて挙げておきます。


頭部の形態
 猛禽は肉食性のため、獲物を引き裂くために鋭いくちばしを持っています。ハヤブサ類の上くちばしには切れ込み(ノッチ)が見られますが、これはくちばしで獲物の首を折って絶命させるのに便利な構造です。比較的弱い足の力を補うためのものと考えられ、ワシタカ類やフクロウ類ではこの切れ込みはなく、足で強くつかむことで通常目的を達します。
 くちばしの付け根はろう膜と呼ばれる皮膚のようなもので覆われており、左右に鼻孔(びこう)があります。ろう膜の色は黄色っぽいことが多いのですが、種類によっては年齢や性別で異なります。このろう膜の下にはくちばしの成長点となる部分があり、傷付けるとくちばしが伸びなくなったり変形したりします。みなさんの爪と同じと考えて下さい。狭いケージ内で暴れて、ろう膜部分を打ち付けることも多いので注意が必要です。また、くちばしが伸び過ぎていて、どこかに引っ掛けて折ってしまう場合では、この付け根で折れてしまうことも多いので気を付けて下さい(足と嘴のケアのコーナー、「爪のケアと損傷」)。

ハヤブサのくちばし アメリカワシミミズクのくちばし
ハヤブサのくちばし。上くちばしに「切れ込み」がある。くちばしの基部は黄色い「ろう膜」が覆っており、「鼻孔」がある。 アメリカワシミミズクのくちばし。「切れ込み」はない。この写真では「ろう膜」の部分はヒゲのような羽(剛毛)で隠れて見えないが、黒色をしている。

 眼の後ろ辺りには、「耳」があります。イヌやネコと違って「耳介(じかい、いわゆるピンと立っている耳の部分)」がなく、穴が開いているだけです。通常は羽で覆われていて見えません。
 フクロウ類では、正面から顔を見ると輪郭を丸く縁取るように細かい羽が並び、その内側がパラボラアンテナのようになって顔盤(がんばん)を形成しています。そのすぐ外に耳がありますが、左右の高さが違うのが特徴です。これは左右の耳への音の到達時間の違いから、音源の位置を特定するしくみです。コミミズクとトラフズクでは耳の開口部が非常に大きく、縁取りのある膜状の耳介も前後にあって、初めてみるとびっくりします。ワシタカ・ハヤブサ類も含めて耳からは眼球が見えますので、救護された猛禽の診察の際(特に頭部打撲などが疑われる場合)には「耳のチェック」が必須です(身体検査のコーナー「耳のチェックをお忘れなく!」)。ちなみに、フクロウ類で頭の上の方にピンと立っていて耳のように見える羽は羽角(うかく)と呼ばれ、実際の耳の位置とは全く異なる場所に生えているものです。

コミミズクの耳の位置 コミミズクの耳
コミミズクの耳の位置(矢頭)。細かい羽が並んで、縁取るようにして顔盤を形成している。 コミミズクの耳(外耳道)。こんなに大きな開口部が羽の間に隠れている。黒っぽく見えるのは眼球の後ろの部分が透けて見えているもの。

翼の形態と羽
「猛禽の骨格」のセクションを参考にしていただくと理解が深まります。

 ハンターである猛禽にとって、飛ぶことは移動のためだけでなく狩りのための重要な手段でもあります。ですから、翼の形態やそこに生えている羽は非常に重要です。
 まずは羽ですが、風切(かざきり)と呼ばれる大きな羽が合計で20数枚生えています。翼の外側の10枚を初列風切(しょれつかざきり)、その内側の10〜20数枚を次列風切(じれつかざきり)、最も内側の3枚を三列風切(さんれつかざきり)と呼びます。猛禽では三列風切は次列風切に含んで数え、区別しないことも多いです。
 初列風切は中手骨と指骨(人の手首から先に相当)から生えていて、飛行に際して主に推力(前へ進む力)を生み出します。内側から外側へ向かって1番、2番・・・10番と番号を付けます(「第3初列風切」等と呼びます)。初列の6〜8番あたりは長いので、保護収容中に不適切な飼育をしていると、すぐに擦り切れてボロボロになってしまいます。これでは放鳥どころかリハビリのトレーニングもままならないので、適切な止まり木を与えるなど風切羽のケアには十分に注意を払って下さい。ケージのコーナー、「止まり木はどうすればよい?」
 次列風切は尺骨(人の肘から手首までの部分に相当、→「猛禽の骨格」を参照)から生えていて、その枚数は種類によって10枚から20枚程度と様々ですが、ワシ類などの大型種やミサゴなどの翼の長いもので枚数は多くなります。初列と異なり、内側へ向かって1番、2番と番号を付けていきます。飛行に際しては、主に揚力(浮かび上がる力)を生み出します。
 これらの羽の根元の部分を保護するように覆っているのが大雨覆(おおあまおおい)と呼ばれる羽で、対応する風切によって「初列大雨覆」、「次列大雨覆」という名称がついています。

猛禽の翼(上面)
アメリカチョウゲンボウの右翼上面。数字は初列および次列風切の番号を示している(「鳥類の包帯法と副木/副子法」より)。

 あと小さいものの重要な役割を果たすのが小翼羽(しょうよくう)です。翼角(よくかく)と呼ばれる人の手首にあたる部分から指骨がでていますが、そこに生えている3枚ほどの羽です。急旋回や着地前など、飛行速度が急に落ちた時に広がって気流を整え、墜落を防いでいます。林の中で急旋回をして小鳥を追い掛けるハイタカ属などでは、この羽の働きは非常に重要なものとなってくるので、その状態はリハビリでは注目しなければならないポイントの一つです。
 また翼の付け根の上面(背面)には肩羽(かたばね)、下面(腹面)には腋羽(えきう、わきばね)と呼ばれる羽が見られますが、これらは上腕骨(人の肩から肘までの部分に相当)から生えているものです。翼に8の字包帯を施す場合に包帯に含む必要のある羽なので、知っておいてもらいたいもののひとつです(初期の処置のコーナー、「翼への8の字包帯法」)。

コミミズクの上面
コミミズクの上面。翼の先に近い長い羽が初列風切、内側へ続くのが次列風切。翼で頭部の方へ飛び出している関節部分が「翼角」にあたる。

 翼の付け根から翼角のあいだに前翼膜(ぜんよくまく)あるいは単に翼膜(よくまく)と呼ばれる膜があります。飛行のために空気を捕らえる広い面をつくっています。この前縁にはゴムのように伸び縮みする長い腱が走っていて、翼を十分に伸展するにはこの腱の柔軟性が必須です。この腱以外にも、翼膜には複数の腱や靱帯が走っています。骨折や長期の包帯で翼膜が柔軟性を失ったり、翼前縁の腱が萎縮したりすると翼が伸びきらず、飛行不能となることもあります。


コミミズクの尾羽(上面)。見た感じでも非常に柔らかそうである。尾羽の根元を覆っているのが「上尾筒」。

羽域(ういき)
 猛禽の体は羽ですべて覆われているように見えていますが、皮膚の全ての部分に均一に羽が生えているわけではありません。猛禽の皮膚は、羽が生えている羽域(ういき)と羽が生えていない裸域(らいき)に分けられます。羽域に生えている羽がうまく裸域を覆うようになっていて、皮膚全てから羽が生えているように見えているのです。
 例えば胸の中央部分は裸域で、羽が全くありません。裸域をみて、羽が抜けていて異常だと勘違いしないようにして下さい。
 ちなみに、平胸類(ダチョウの仲間)やペンギン類では皮膚全体に均一に羽が生えています。

尾と足
 尾羽(びう、おばね)は猛禽類では通常12枚あって、中央部から左右外側に向かって右1番、右2番といったように番号を付けます。飛行ではかじ取りやバランス取り、またブレーキの役目を果たします。尾羽は脊椎最後尾の尾端骨(びたんこつ、→「猛禽の骨格」を参照)に付着しています。
 この尾羽も収容中に傷みやすく、とくにフクロウ類のものは柔らかいためすぐに傷んでしまいます。適切な止まり木を与え、尾羽にカバーを付けることで、損傷を防いで欲しいと思います(ケージのコーナー、「ケージ内での負傷を防ぐには? 3. 羽の保護」)。
 尾羽の付け根は上面(背面)を上尾筒(じょうびとう)、下面(腹面)を下尾筒(かびとう)という羽で覆われています。上記の尾羽のカバーを付ける時には、上尾筒にテープで接着します。尾羽の付け根には尾脂腺(びしせん)と呼ばれる油脂を分泌するところがあり、羽づくろいの時にくちばしにその油をつけて羽に擦り付けます。大きな「できもの」のようにも見えるので、正常な構造物であることを知っておいて下さい。

 足にはそれぞれ4本の指があります。後ろに向かって伸びている最も大きなものが第1趾(だいいっし)で、人の親指にあたります。残り3本は内から外に向かって、第2、第3、第4趾と呼ばれます。
 ワシタカ・ハヤブサ類では第2〜4趾は前に向かって伸びていることが殆どなのですが、ミサゴは第4趾が後側に可動で、滑りやすい魚をつかみやすくなっています。フクロウ類も第4趾は可動で、通常第2、第3趾が前へ、第1、第4趾が後ろへ伸びた形になっています。
 足裏には柔らかい肉球(肉趾、にくし)が見られ、クッションの役割をしています。中央にある大きなものは蹠骨肉趾(しょこつにくし)と呼ばれ、不適切な止まり木などで趾瘤症(しりゅうしょう)を起こしやすい部位でもあります(足と嘴のケアのコーナー、「趾瘤症」)。飼育下にいる猛禽では、常に足裏のチェックを心掛けていただきたいです。
 各趾の先には鉤爪(かぎづめ)がありますが、これも人の爪と同じと考えて下さい。黒い部分が鞘になっていて、付け根から先端に向かって生長を続けています。この鞘の下には薄い組織があって血管や神経も通り、中心には骨があります。ですから爪を切り過ぎたり、事故で爪の鞘がすっぽりとれてしまうと、出血します。


.


鳥類の足 ハヤブサの足裏
鳥類の足。1: 第1趾、2: 第2趾、3: 第3趾、4: 第4趾。左は「三前趾足(さんぜんしそく)」と呼ばれ、ワシタカ・ハヤブサ類に一般に見られる形。右は「対趾足(たいしそく)」と呼ばれるもの。ミサゴやフクロウ類では第4趾が後ろへ可動で、この対趾足のように見える(「鳥類の包帯法と副木/副子法」より)。 <ハヤブサの足底。MD: 「蹠骨肉趾(しょこつにくし)」、D1: 第1趾。

 この爪は野生猛禽で非常に鋭いもので、ハンドリングの際には適切な装備(革手袋など)と十分な注意が必要です。長期収容が予想される場合には、爪のごく先端のみを切っておくと、人も鳥も傷付かずに済むので試してみて下さい。放鳥の際に、削って鋭く整えてやればOKです。また、伸び過ぎているとケージ内でひっかけて、爪の鞘を剥がしてしまうことも多いので、定期的に削って手入れをします。


◆このページの文章及びイラスト・写真の無断転載・使用を禁じます◆
Copy Right: Chikako AKAKI, All rights reserved.