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受け入れ時の身体検査

Physical Examination on Admission

  目次
  ☆受け入れ時の身体検査で注意することは?
   ☆検査台での猛禽の保定
   ☆身体検査の項目は?
   ☆耳のチェックをお忘れなく!
   ☆衝突が疑われる時のチェックポイント

- 最終更新日:2003年4月25日 -


受け入れ時の身体検査で注意することは?

アメリカフクロウ
輸送ボックスで身体検査を待つアメリカフクロウ。このように起立して外を覗いているようならまだ元気。

 猛禽に限ったことではありませんが、受け入れ時の身体検査は『手早く、確実に』行うことが大切です。まず、運ばれてきた箱やケージから出さずに、外から様子を観察することから始めます。箱の中で動いているのか、うずくまってしまっているのか、横たわっているのか、それとも立ち上がれそうなのかなどの観察を可能な限り行います。
 もし、あまりに暴れるようならば、鳥の状態が許すならイソフルレン麻酔下で手早く(5〜10分で)検査を済ませることをお勧めします。無理に保定されることによるストレスと、暴れることによる体力の消耗は大きいものです。イソフルレン麻酔なら、多少状態が悪い鳥でも大丈夫ですし、呼吸困難があっても、逆に麻酔下で100%の酸素を供給されることで症状が緩和されることも多く見られます。


検査台での猛禽の保定

 検査台に猛禽を保定する場合、1人で全てを行わなければならない場合には、日本手ぬぐいで巻く方法や布にマジックテープを付けたコルセットの様なもので巻く方法等があります。ここでは、検査者以外に保定を担当する者がいる場合について説明しておきます。
 猛禽を腕に抱える場合(下図参照)は、嘴の顔への攻撃を避けるために、胸の低い位置で抱えるようにします。両脚は利き手でしっかりと持ち(人差し指を両足の間に入れて握るようにします)、引いて伸ばしておきます。こうすればふいに足で攻撃したりできないので、検査者や鳥自身を傷つける心配がかなり減ります。
 また、抱えている時に鳥が非常にもがくようなら、無理に押さえ込もうとせずに、翼と体を抱えている方の手を外し、鳥をさかさまに吊るす格好で羽ばたかせます(但し、翼に骨折がある等で羽ばたかせるとまずい場合や、脚に問題のある場合は止めて下さい)。足はしっかりと持ったままで、できるだけ腕を伸ばして、自分の体と床から鳥を遠ざけるようにして逆さまに吊るし、羽根が物に当たらないように気を付けて羽ばたかせて下さい。しばらくして羽ばたかなくなったら、そっと翼を回収して抱え直します。
 腕に抱えた猛禽をそっと検査台の上に置き、翼を含めて体を抱えている方の手・腕をそっと抜くように外します。すぐに外した手・腕を、鳥の顎の下の辺りを横切るようにして置いて、鳥を軽く押さえるようにします。腕や掌をうまくカーブさせて、鳥の体に沿うようにして下さい。腕の部分で手前側の翼を押さえるとともに、鳥の頭部の動きを制限します。顎の下辺りに腕があると、頭を起こして検査者に噛み付いたりできません。ワシ類などの大型種では、手前側の翼を自分の体に押し付けるようにするとコントロールしやすいでしょう。また、小型種なら手だけで同様のことができます。
 両脚は「ふしょ」の足関節寄りを利き手でしっかり掴んで、引いて伸ばしておきます。こうすると、検査者の手や鳥自身の足を掴んでしまうことを防げます。
 麻酔下でないならば、鳥の視界を遮って大人しくさせてストレスを軽減させるために、頭部を布などで覆います。同時に鳥の周り、特に頭部付近でうろうろして、鳥を刺激しないように注意しましょう。


腕に抱えられた猛禽 検査台に保定されたハクトウワシ
適切に腕に抱えられた猛禽。嘴の顔への攻撃をさけるために、胸の低い位置に抱える。また、両脚を引いて伸ばしているのは、物を掴んだり、爪で攻撃することを避けるためである。小型猛禽では腕で抱える代わりに、背側から手で包むようにするとよい。 「飼育猛禽のケアと管理」より 検査台に保定されたハクトウワシ。両脚は引いて伸ばされ、人の手や鳥自身の足などを掴まないようにしている。また、片腕(矢印)は鳥の顎の下辺りを横切って、手前側の翼を押さえると共に、鳥の頭部の動きを制限している。同時に手で向こう側の翼を押さえている。

身体検査の項目は?

 身体検査では短時間で必要な情報を得なければなりません。また、鳥の状態によっては、ごく限られたチェックしかできないこともあります。そこで、チェック項目をまとめて1枚の記入用紙を作っておくと、チェック漏れが防げますし、どの項目がチェックできなかったかも後で知ることができます。身体検査は、常に同じ手順で体系立てて行うよう心掛けます。

 チェック項目は他の鳥種とは大差ありませんが、例として以下の項目が挙げられます:
・全般的な様子/姿勢:起立できるか、攻撃して来る元気はあるか、呼吸の様子など。
・羽根の状態:特に風切、尾羽の状態をチェック。また、ダニやハジラミなどの外部寄生虫の有無もチェックしておきます(複数羽を同時収容する場合など、駆虫しないと他個体へ感染の恐れ)。
・脱水の有無:5%未満の脱水は判別できません。しかし、保護される多くの猛禽で軽い脱水(2〜3%)を起こしているものと考えられます。
・眼:衝突などの場合、網膜剥離や出血が見られることがあります。また、眼球が大きく、特にフクロウ類は頭骨に覆われず突出している部分が多いため、角膜に傷がついていることもよくあります。
・耳:衝突などの場合に、出血が見られることがあります(次の『耳のチェックをお忘れなく!』を参照)。
・嘴/ろう膜:『ろう膜』とは、嘴の付け根辺りに見られる、多くの種で黄色や黒色などをした部分。
・口:口腔にトリコモナスの病巣(クリーム色の固まり、『感染症・寄生虫』を参照)などが見られることもあります。
・竜骨突起の突出状態/体の状態:胸を触診し、竜骨突起の突出状態を調べます。つまめるようなら、絶食などのために胸筋が消耗している状態です。
・総排泄孔/糞:起立できないと総排泄孔の周囲が汚れますし、脊髄損傷などで排泄障害(いわゆる「垂れ流し」)がみられることもあります。
・翼:左右別々にチェックし記録。翼の骨折はよく見られます。時には、脱臼もあります。翼膜のチェックもお忘れなく。
・足/脚:爪や足趾は猛禽には大切な所です。足の裏のパッド(肉球)の状態や、傷の有無も含めてチェックします。
 あと、忘れずに体重を測定します。必要に応じて、レントゲン撮影、検査のための血液採取を行うとよいでしょう。

耳のチェックをお忘れなく!

 身体検査で忘れがちになる1つに、耳のチェックがあります。衝突が疑われる時などは、口腔内や眼内出血に加えて外耳道に出血が見られることもあるので、チェックしてみてください。
 特にフクロウ目の鳥はメンフクロウ類を除いて一般に大きな外耳道を持ち、また、他の鳥と異なって耳介が発達しています。その広い外耳道に、夏期などはウジが入っていることすらあります。加えて、外耳道の位置が眼球に近いので、後眼部の出血を外耳道から観察できることもあるので、眼のチェックと合わせて行うとよいでしょう。

フクロウ頭部の横断面 Asio属の耳介
フクロウの頭部の横断面。眼球と外耳道(ピンクの部分)が非常に近いことが分かる。PrEF:前耳介、PtEF:後耳介、EAM:外耳道、TM:鼓膜。 Asio属の頭骨と耳介。大きな耳介が外耳道の前後に発達している。中央の孔が外耳道。PrER:前耳介、PtER:後耳介。

 フクロウ類の耳の位置は左右で高さが異なります。顔盤のすぐ後ろ付近を探すと、縁に細かい羽毛の生えた耳介(前後にあります)があって、外耳道の入り口がすぐに見つかります。顔盤は "facial disk" といって、顔の輪郭を縁取るように小さな特殊な形をした羽毛が生えて、集音アンテナのような構造を作っています。日本産の殆どのフクロウ類で、この顔盤はハッキリと見られます。なお、羽角(うかく)と呼ばれる頭部の上の方にある耳のように見える羽根は、耳そのものとは全く関係ありません。

コミミズク アメリカワシミミズク
コミミズクの耳のおよその位置(矢頭)。顔盤を縁取る黒っぽく細かい羽根に注目。 アメリカワシミミズクの耳のおよその位置(矢頭)。

コミミズクの耳 コミミズクの耳
コミミズクの耳。右側が顔盤、左側が後頭部方向。ぱっくりと大きく開口しているのが良く分かる。中央の黒い部分は眼球が透けて見えているもの。 コミミズクの耳。薄く白っぽい皮膚を通して見える黒っぽい部分(写真中央)が眼球の後部である。眼球の後ろの部分(後眼部)に出血があれば透けて見える。

衝突が疑われる時のチェックポイント

 衝突が疑われる時には、眼や耳、口腔内を含めた頭部をきちんとチェックすることは言うまでもありませんが、それ以外に衝突した猛禽で注意が必要なのが脊髄の損傷です。
 脊髄周辺の出血や脊椎骨折の認められない場合は、受け入れ時に起立できなかったり羽ばたけなかったりしても、その後の治療で快方に向かうこともあります。しかし、明らかに骨折の見られる場合は予後不良なので、欧米の野生猛禽の救護の現場では鳥のためにも早い時期での安楽死が一般的です。ここでは、脊髄骨折の見つけ方を紹介しておきます(これは、獣医師でなくてもチェックできます)。
    猛禽の椎骨は胸椎以下で互いに靭帯でしっかり繋がれており、また一部分で癒合しているために可動性に乏しく、骨折しても骨折片の変位(折れた骨のずれ)が大きくない事がよくあります。そのためにレントゲンでも脊椎の骨折は発見しにくいことがあります(とくに中型以下の猛禽では発見しにくくなります)。しかし、脊髄骨折が起こる場合にはかなりのエネルギーがかかっているので、周辺血管もたいていは損傷を受けています。それに伴う皮下出血を目安にチェックすると、見つけやすくなります。

具体的な方法:
1. 鳥の背中からチェックします。羽根をかき分け、脊椎付近の皮膚を露出します。見にくければ、羽根を水や消毒用アルコールで少し濡らすと見やすくなります(但し体温を奪うので、濡らすのは最小限にとどめます)。
2. 脊椎に沿って皮下出血が見られないかを調べます。出血が見つかったら、触診で骨の変位(骨がずれていないか)の有無を調べます。骨折がよく見られるのは、骨盤のすぐ頭側の所です。
 この部位は、synsacrum(複合仙骨で骨盤とさらに一体になっている)とnotarium(癒合した胸椎)という2つの癒合した脊椎グループの境界に当たります。さらにこの2つの癒合脊椎の間に、1つ脊椎が挟まる格好になっています。このような構造上の特徴から、衝突のショックで骨折が起こりやすいようです。
 最後にレントゲン写真とも照らし合わせて、骨折を確かめて下さい。

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