Parasitic Diseases Observed in Captive Raptors
この項目では、飼育猛禽にみられる主な寄生虫症について取りあげています。猛禽類の寄生虫の詳細については文献のコーナーで紹介している本などを参考にして下さい。獣医師を対象にしていますが、予防や適切な対応のためにも、獣医師以外で猛禽を扱う機会のある方には、症状や予防の項目だけで参考になるかと思います。
目次
☆トリコモナス感染症
☆毛細線虫と消化管寄生虫
☆血液寄生虫(住血胞子虫)
- 最終更新日:2001年5月16日
トリコモナス症は、Trichomonas gallinarum あるいはT. columbarum という原虫に起因し、口腔内やそ嚢にチーズ様の病変を形成します。ドバトなど殆どの野生バトはこの原虫を持っていますが抵抗性があり、健康である限り殆ど影響は受けません。しかし、猛禽がトリコモナスに感染したハトを捕食すると、発症します(種によっては抵抗性を獲得しているらしいものもあります)。したがって、ハトを餌として与える場合には、注意が必要です。
口腔内やそ嚢粘膜にクリーム色のチーズ様の班や塊がみられます。そ嚢がいっぱいになる程、大きな塊が見られることもあります。病変部が嚥下をさまたげる程には大きくない場合は、食欲低下や拒食は一般に見られません。以下の他の疾病でも同様の病変が見られることがありますので、鑑別には注意して下さい
*トリコモナスと鑑別の必要な他の疾病:類似した白っぽい班が口腔内に見られますので注意して下さい。
・カンジダ症
・毛細線虫症(下記)
・細菌性の膿瘍
・ビタミンA欠乏症
病変部のサンプルを採取して、スライドグラスにのせて生理的食塩水をかけてから顕微鏡下で観察します。この際、スライドを38℃程度に温めて観察を行えば、運動する虫体が見られます。
そ嚢に大きな病変部が存在して、嚥下困難が見られる場合などは、病変部を外科的に切除します。軽度のものでは、以下のどちらかの薬剤を投与します。
・メトロニダゾール(Metronidazole):30〜55mg/kg SID PO. 5〜7日の投与が目安です。
・カルニダゾール(Carnidazole):30mg/kg BID PO. 3日程度の投与が目安です。
ハトを餌として与える場合は、注意が必要です。屠殺したばかりのものを与える場合などは、頭部と消化管(食道、そ嚢、胃腸)を取り除くようにします。また、冷凍すればトリコモナスは死ぬので、冷凍したものを解凍してから与える、あるいは、トリコモナスの駆虫剤を投与して一定期間経過したハトを利用するなどの工夫が必要です。
毛細線虫
毛細線虫はCapillaria 属に含まれる線虫で、鳥類でも小腸などの消化管に寄生します。毛細線虫の種類によっては、口腔内や食道、そ嚢粘膜に潜り込んで寄生し、クリーム色の班を形成します。
口腔内に、前述のクリーム色の班が見られる(口腔内寄生、この病変は他に類似するものがありますので『鑑別』に注意して下さい)、あるいは触診で食道やそ嚢に塊が触れる(食道・そ嚢寄生)などが挙げられます。小腸に寄生した場合は、初期には軽度の下痢が見られるなどで、また、うまく飛べなくなったりもします。食道やそ嚢の病変は膿瘍や穿孔を伴うことがあるので、発見が遅れると死亡する場合があります。
糞便検査で、両極に栓状物質があるレモン状の虫卵を見つけることで診断できます。口腔内に病変が見られる場合は、そこからサンプルをとって鏡検することで虫卵を検出します。
食道の病変部が膿瘍を伴ったり、穿孔を起こしたりしている場合は、外科的処置と抗生物質の投与が必要となります。それ以外では、以下の薬剤で対応できます。
・フェンベンダゾール(fenbendazole):25〜50mg/kg SID PO で3〜7日の投与を行います。
・レバミゾール(levamisole):10mg/kg PO を1回のみ投与します。
毛細線虫には中間宿主が存在するものとそうでないものがあります。中間宿主としては、ミミズが挙げられます。屋外で飼育しているものについては、ミミズなどとの接触がないように注意し、また、定期的に糞便検査を行って感染の有無をチェックするとよいでしょう。
その他の消化管寄生虫
野生由来の猛禽では、生活環の完結に中間宿主を必要とする吸虫や条虫が小腸(吸虫では胆管や肝臓のこともあり)に見られることがあります。重感染では臨床症状が出て治療が必要ですが、多くの場合は剖検時に少数発見されるにとどまります。診断は糞便中の虫卵を検出することによります。
治療が必要な場合は、プラジカンテル(praziquantel)を30mg/kg PO で1回投与すると良いでしょう(吸虫の場合、1週間後に同量を再投与)。
また、コクシジウムに感染している場合もあります。Caryospora属やEimeria属がよく観察される種類です。症状としては、沈鬱、水様性の下痢、食欲減退、若鳥の成長阻害などが挙げられます。血液を含んだ赤色便の排泄は、重感染の場合のみにみられるものです。診断は糞便から虫卵を検出することです。
治療にはスルファジメトキシン(sulfadimethoxine)を55mg/kg POで1回投与後、翌日からは25mg/kg SID PO で8〜10日間投与します。あるいは、クラズリル(clazuril)を5〜10mg/kg SID PO を2日間投与します。
線虫では回虫が問題となります。特に、幼鳥で重感染を起こすと、体重減少や沈鬱の症状が見られ、場合によっては、多数の成虫寄生により腸閉塞を起こすこともあるので注意が必要です。下痢が見られることは少ないです。診断は糞からの虫卵検出によります。
治療にはフェンベンダゾール(fenbendazole)30〜50mg/kg POを1回投与するか、イベルメクチン(ivermectin)0.2mg/kg POを1回投与するかします。効果のない時には、どちらの薬剤を使用する場合でも、4〜7日おいて同量を再投与します。
傷病猛禽では疾病などによるストレスで、寄生虫に対して抵抗力の低い状態にあるため、重篤な寄生虫感染に陥る恐れがあります。特に、春から夏にかけて保護される幼鳥に寄生虫の重感染が見られます。救護施設では、猛禽収容後、状態が落ち着いたら、数日中にイベルメクチン0.2mg/kg PO とプラジカンテル30mg/kg PO を1回投与して、駆虫しておくのも方法のひとつです。
野生の猛禽が血液寄生虫(住血胞子虫)を持っていることは珍しくありません。ロイコチトゾーンとヘモプロテウスでは病原性が低く、猛禽では鳥が健康である場合にはまず問題になりません(ロイコチトゾーンで、猛禽の若い個体に貧血などの症状が出ることが稀にあり)。特に、放鳥を予定する場合では、野生で再感染することが充分考えられますので、臨床症状のない個体に対して、治療に時間をとって放鳥を遅らせることは良い考えではないでしょう。治療が必要なのは鳥マラリアだけです。
ヘモプロテウス(Heamoproteus属)とロイコチトゾーン(Leukocytozoon属)
どちらも、それほど珍しくありません。ヘモプロテウスはヌカカやシラミバエによって、ロイコチトゾーンはブユやヌカカによって媒介されます。
ヘモプロテウス、ロイコチトゾーンともに、末梢血では赤血球にガメトサイト寄生がみられますが、シゾントはみられません。赤血球の細胞質内に見られるガメトサイトは、ヘモプロテウスで屈折性の色素顆粒を持ち、ソーセージ状で核を取り囲み、核の位置に変化はありません。一方、ロイコチトゾーンのガメトサイトは屈折性色素顆粒を持たず、核を周縁に押しやって赤血球の形を大きく変えてしまいます。
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| ヘモプロテウスの赤血球内ガメトサイト(上3個)。屈折性の色素顆粒を持つ(褐色の部分)。 |
ロイコチトゾーンの赤血球内ガメトサイト(中央2つ)。屈折性の色素顆粒はない。 | |
鳥マラリア
鳥マラリアはPlasmodium属の住血胞子虫に起因する疾患です。Culex属、あるいはAedes属の蚊が媒介動物となります。鳥類ではカモ類やスズメ目の鳥などかなりの種類からPlasmodiumが検出されていますが、免疫を確立してるものも多く、臨床症状を示すことはまれなようです。しかし、ペンギンなどの本来高緯度に生息する種がマラリアに対して抵抗性が低く、猛禽ではシロハヤブサやシロフクロウ、オナガフクロウなど、また成鳥より幼鳥が罹患しやすいです。
それほど頻度の多い寄生虫症ではありませんが、上記の感受性の高い種が感染した場合は極度の貧血を示し、放置すると死亡することも多いので、迅速かつ適切な処置が必要です。また、回復しても体内に虫体が残り、抵抗力の落ちたときに再発を繰り返すことが多いです。本州北部でも猛禽での発生例はあるので、注意して下さい。
健康だった鳥が、突然に拒食、倦怠、沈鬱などを示します。臨床症状の見られない感染の場合は別として、症状が見られた場合には多くで早い経過をたどります(症状発現から2、3日で死亡することあり)。
*溶血性貧血:時にはPCVが20近くまでになります(正常値は45から50)。
*血色素尿症:大量の赤血球破壊のために、糞が緑色を呈します。ただし、この症状がでるのはかなり進行してからで、すぐに投薬を開始しても死亡することがあります。
*体重減少、沈鬱、嗜眠、呼吸困難、チアノーゼ、脱水など。
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| 鳥マラリアの赤血球内虫体。G:ガメトサイト、T:初期のトロフォゾイト、S:シゾント。ガメトサイトには屈折性の色素顆粒が見られる(ここでは褐色)。 | |
診断は末梢血中に、マラリア原虫を検出することによります。ただし、末梢血中の赤血球に虫体が検出されるまでには、感染から時間がかかるので、虫体が検出されなくてもマラリアの可能性は残されています。
末梢血中のPlasmodium属虫体の特徴
・赤血球の細胞質内に屈折性の色素顆粒を含む、ガメトサイトとシゾント、時にトロフォゾイトが見られる:ヘモプロテウスでは末梢血中にシゾントやトロフォゾイトは見られません。
・虫体は白血球やトロンボサイト(栓球)にも見られることがある。
ペンギンなどでは赤血球内にあまり虫体が見られないようですが、シロハヤブサなどでは塗沫標本の半分近くの赤血球に虫体が見られることもあるようです。
以下の2種の薬剤の投薬をすみやかに開始します。
・クロロキン(chloroquine):赤血球内の虫体に有効です。15mg/kg PO. 初回(0時間)、12時間後、24時間後、48時間後の4回投与します。
・プリミキン(primiquine phosphate):赤血球以外の組織内の虫体に有効です。0.75mg/kg PO. 初回のみクロロキンと一緒に投与します。
効果があれば3〜7日で臨床症状は見られなくなります。治療後の血液検査で虫体が消失していても、おそらく組織には虫体が残り、一生虫体を持ち続けることになります(このような個体には、以下の予防的な抗マラリア薬の投与が再発を防いで有効です)。
*媒介動物(カ)との接触を避ける:マラリアに感受性の高い種を飼育する場合では、夏期には室内で飼育する、あるいはケージを細かいネットなどで覆うなどして(通気に注意)、蚊との接触を避ける工夫をします。
*予防的な薬剤投与:蚊の多い地域で感受性の高い種を飼育する場合には、蚊の見られる期間中(5月から11月上旬)は予防的に抗マラリア薬の投与がすすめられます。
・クロロキン15mg/kg PO とプリミキン0.75mg/kg POを週に1度投与。
この投与は、1度マラリアを発症した個体の再発を防ぐためにも有効です。
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