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感染症

Infectious Diseases Observed in Captive Raptors

 この項目では、飼育猛禽にみられる主な感染症について取りあげています。猛禽類の感染症には他にも色々ありますので、その情報については文献のコーナーで紹介している本などを参考にして下さい。獣医師を対象にしていますが、予防や適切な対応のためにも、獣医師以外で猛禽を扱う機会のある方には、症状や予防の項目だけで参考になるかと思います。

  目次
  ☆アスペルギルス症
   ☆カンジダ症
   ☆鳥結核

最終更新日:'01.05.16.


アスペルギルス症

 アスペルギルス症はAspergillus属の真菌(カビ)に起因するもので、鳥類では主に気嚢や肺、気管などの呼吸器がその標的となります。進行すれば心臓や肝臓などにも広がります。進行してからでは治癒が大変困難なので、予防と早期発見・早期治療を心掛けます。
 猛禽でよく分離される病原菌は、Aspergillus fumigatusですが、A. nigerA. flavusが分離されることもあります。

原因
 免疫力の低下した鳥がアスペルギルスの胞子を吸引して起こることが殆どです。アスペルギルスの胞子は少数なら至る所に存在し、健康な鳥が多少の胞子を吸引しても発症することはありません。但し、非常に大量の胞子を一度に吸引した場合では、健康な鳥でも発症して急性経過で死亡するケースもあります。なお、鳥から鳥への感染はないとされています。

 免疫力の低下がみられるケースとしては、
疾病や怪我、衰弱:特にウイルス性疾患、鉛中毒、油汚染など。
飼育環境の変化:新しいケージに移す、飼育者が変わる、新しい鳥を同じケージに加えて混合飼育を始めるなど。
ステロイドの長期投与:鳥類は哺乳類に比べて、ステロイドの免疫抑制作用に敏感。

症状
 初期の症状は非常に軽微で、呼吸器症状は見られません。
 初期の症状としては、
活動低下:動きが鈍くなった、休息している時間が長くなった、など
食欲減退
原因不明の緩やかな体重減少
行動の変化:獲物を追うのをあきらめるのが早くなった、など
などが挙げられます。
 病状が進行してはじめて、呼吸困難(口を開けてしきりに呼吸する、胸部から腹部が呼吸の度に大きく動く等)や削痩、衰弱がみられるようになります。日頃から鳥の様子は詳しく観察するように、習慣付けて下さい。

診断
 診断法としては次のものがありますが、確定には複数を行うことが必要です。

レントゲン:DV, Lateralの両方の撮影が望ましいです。気嚢や肺に白い影がみられればアスペルギルスが疑われます。気嚢では、後胸気嚢に病変が見られることが多いです。ただし、レントゲンで異常があるとすでに進行していることが多く、逆にいえば、レントゲンで異常がみられなくてもアスペルギルスの可能性は否定された訳ではありません。

アスペルギルスX線VD
アスペルギルスに感染したアカオノスリのX線写真(VD像)。肺および後胸気嚢に白い影が見られる。心臓よりやや尾方のdensityの低い部分が、後胸気嚢と腹気嚢が重なりあう部分。参考までに、肩関節のすぐ下でdensityの低い三角形の部分が、鎖骨間気嚢。

アスペルギルスX線Lateral
上と同じアカオノスリのLateralのX線写真。本来はdensityが低く、黒く写る後胸気嚢に白い影がはっきりと見られる。

気管サンプルの培養:できるだけ長く細い滅菌綿棒で気管内をぬぐって、サンプル採取します。この時に、口腔内に綿棒が触れないように注意します。サンプルはサブロー寒天培地に接種して、38℃で培養します。アスペルギルスなら18〜24時間で白い綿毛様のコロニーがみられ、48時間程度で灰緑色の胞子の産生がみられます(下図)。カビの構造を見るには、コットンブルー染色を行います。なお、気管からのサンプル採取は麻酔なしで行えます。

アスペルギルスのコロニー
シロハヤブサの気管から採取したサンプルを、サブロー寒天培地で3日培養したもの。グレーがかった緑色のアスペルギルスのコロニーが一面に見られる。

内視鏡検査:内視鏡で気管や気嚢、肺を直接観察します。気嚢・肺の観察では、鳥は横臥位に保定して脚を尾方に引き、最後肋骨と癒合仙骨、大腿骨に囲まれた部分の腹壁から内視鏡を挿入します。最初に皮膚を小さく切開し、モスキート鉗子で筋層に穴を開けて挿入口を作ります。アスペルギルスでは肥厚した気嚢壁や白っぽい結節、あるいは綿毛様のコロニーなどが観察されます。

内視鏡検査剖検
気嚢の内視鏡検査。画面中に見えるクリーム色の結節が、アスペルギルスの病変。先のX線で示したアカオノスリの剖検写真。著しい気嚢壁の肥厚と、クリーム色の結節が後胸気嚢(ピンセットで保持している部分)に見られる。

血液検査:血清中にアスペルギルス抗体を検出できれば診断がつきます(ELIZAなど)。感染鳥では、顕著な白血球増加がみられます。初期にはヘテロフィル増加が顕著ですが、やがて単球増加症に移行します。

治療
 呼吸困難などがみられる程進行している場合には、治癒は困難となります。

進行している場合:抗真菌剤の投与、噴霧治療、病巣の除去などを組み合わせて行います。
抗真菌剤の投与:アンフォテリシンB(経気管、殺菌)とazole系の抗真菌剤(経口、静菌)を組み合わせて使用します。
・アンフォテリシンB:1.0mg/kg BID. (経気管)。 投与直前に滅菌生理的食塩水に溶解します。体重1kgあたりで0.2cc程度の液体を気管内に注入しても大丈夫です。肺からの吸収が悪いので、肺・気嚢の病変に有効です。但し、腎毒性が高いので長期使用には注意が必要です。
・イトラコナゾール(itraconazole):7〜10mg/kg BID PO. azole系で現在のところ最も効果があるとされ、よく使われているもので、下記のケトコナゾールよりも真菌に対して特異性が高いため、鳥により安全とされています。
・ケトコナゾール(ketoconazole):15mg/kg BID PO.
・フルコナゾール(fluconazole):5〜15mg/kg BID PO.

噴霧ケージ
噴霧のために紙で覆われたケージ。正面ドアの中央からエアゾル化した薬剤が入る。

噴霧治療(nebulization):狭いケージ内に薬剤をエアゾール化して充満させ、吸入させる方法です。ケージはほぼ密閉状態にします(右図)。
・クロトリマゾール(clotrimazole):30〜60分の噴霧を1日2回、3日連続したのち、2日休止することを必要に応じてくり返します。 50mg/mlの濃度で使用します。

内視鏡による病巣除去と薬剤の直接塗布:内視鏡で鉗子や薬剤注入の機能があるものでは、気嚢の病巣の除去や、薬剤の塗布(クロトリマゾールなど)も可能です。

ごく初期の場合:抗真菌剤の経口投与で対応します。
抗真菌剤の経口投与:上記のイトラコナゾールなど(7〜10mg/kd BID PO)


予防
 上記のように治療が困難なので、できる限り予防に努めます。

飼育環境を清潔に保つ:ケージ内でカビなど発生しないようにします。
ストレスの軽減:不必要なハンドリングをさけ、静かで刺激の少ない環境に置くことを心掛けます。

抗真菌剤の予防的投与アスペルギルスに感受性が高い種にストレスが予想される場合には、予防的に抗真菌剤を投与しておくことが賢明です(ストレスによる免疫抑制の例としてはとしては、前述の原因を参照)。
 例えば、ケージの移動の前後合計2〜3週間、あるいはステロイド使用中にイトラコナゾール7〜10mg/kg SIDを経口投与するなどします。

 猛禽類でアスペルギルスに感受性の高い種としては、
・イヌワシ
・オオタカ
・ケアシノスリ
・アカオノスリの若い個体
・シロハヤブサ
・ミサゴ
・シロフクロウ

などが挙げられます。

 参考までに、その他の鳥類では、ハクチョウ、シノリガモなどの潜水ガモ類、ペンギン、ヨウムなどがアスペルギルスに感受性が高いとされています。


カンジダ症

 カンジダ症はCandida albicansに起因する消化管の酵母感染症です。日和見感染の傾向が強く、殆どの場合、怪我や疾病で抵抗力の落ちている個体に見られます。傷病猛禽では、抗生物質投与を受けはじめてから1、2週間程度で発症することが多いようです。抗生物質投与中の猛禽で、嚥下困難、食欲減退、嘔吐等が見られたら、カンジダの可能性があります。

病変・症状
 カンジダ症には2つのタイプがあります。1つは、病変が口腔内とそ嚢に限局されているもの、もう1つは、口腔内には病変はなく、そ嚢以下の消化管にのみ病変が見られるものです。前者では、口腔内粘膜(舌、咽頭部を含む)にクリーム色の班がみられることが多く、鳥は嚥下困難や食欲減退などを示します。後者では、口腔内には異常がないものの、大幅な食欲低下、拒食、嘔吐などを示し、場合によっては脱水や衰弱が見られることもあります。

*カンジダと鑑別の必要な他の疾病:類似した白っぽい班が口腔内に見られますので注意して下さい。
トリコモナス症
毛細線虫症
・細菌性の膿瘍
・ビタミンA欠乏症

診断
 白っぽい班があるならそれを、なければ口腔内粘膜全体(舌、咽頭部も含めて広く)を滅菌綿棒でぬぐって、サブロー寒天培地に接種し38℃で培養します。また、カンジダ菌(酵母)を直接観察するには、病変部からのサンプルをコットンブルー染色します。

治療
 治療によく用いられるのは、次の2つの抗真菌剤です。
・ニスタシン(nystatin):液状の薬剤です。投与量・頻度は100,000単位/kg BID or TID で、1週間程度投与します。この薬剤は患部に接触することが必要なので、空腹時(給餌前など)に投与します。投与量の半分をまず口腔内に塗り広げ、残りをそ嚢へ注入するようにします。
・ケトコナゾール(ketoconazole):再発を繰り返すような頑固なカンジダ症に用いられます。15mg/kg BID PO で1、2週間の治療が目安でしょう。但し、鳥種によっては拒食を招くことがありますので(ハヤブサなど)、その場合にはニスタシンに切り替えます。


鳥結核

 鳥結核は、Mycobocterium aviumに起因するもので、猛禽を含むすべての鳥類に感染性が見られ、慢性に経過します。猛禽の場合、感染ルートの多くが、鳥結核に感染した鳥獣の補食やその糞が口に入ることによる経口感染です。飛沫吸引による呼吸器感染や創傷からの皮膚・筋肉感染も時に見られます。
 鳥結核は人畜共通感染症で、抵抗力の低下している人は感染する恐れがあります。野生由来の鳥の場合、衰弱が激しいと思ったら鳥結核だったということもありますので、注意して下さい。

病変・症状
 初期には症状は軽微で発見しにくく、多くの場合、気付いた時にはかなり進行しています。死亡してから剖検で発見されることも少なくありません。症状としては食欲低下を伴わない、体重減少が挙げられます。
 剖検でみられる病変は、哺乳類同様の結核結節(但し、鳥類の結核結節は石灰化が見られません)で、肝臓などを中心としてあらゆる場所に見られます。典型的には白っぽいチーズ様の粟粒大からウズラ卵大の結節が多数みられますが、筋肉などに直径数cmの大きな結節が1、2個見られる場合もあります。

診断
 診断法としては以下があります。
レントゲン:呼吸器や皮下に場合ではレントゲンでその存在が確認できます。しかし、鳥類の結核結節は石灰化しないので、肝臓などの充実した組織内の結節は確認ができません。
糞の抗酸菌染色:猛禽の結核では経口感染が多く、消化管(特に腸)が侵されている場合がもっとも普通で、菌が糞便中に排泄されます。糞を採取して、抗酸菌染色(Ziehl-Neelsen 染色)を行います。但し、病原性のない抗酸菌も染色されるので解釈が難しく、単独で確定診断は困難です。
糞の培養:糞中の結核菌を培養します。検査機関でなく自分で行う場合は、以下の比較的簡単な方法があります。

方法:採取した糞をアルカリ処理(5%NaOH水を等量加えて乳鉢で磨砕し、37℃30分放置)後に遠沈して沈澱を3%小川培地に接種します。結核菌の場合は、発育が遅いですが、病原性のない雑菌性の抗酸菌は3日以内で発育してきます。

組織生検:皮下に結節のある場合には、簡単に除去して、組織検査が行えます。
スライド凝集反応:鳥の血清を結核菌の抗体とスライドガラス上で混合し、凝集反応を見ます。1分以内に凝集が見られれば、結核に感染していると判断します。

治療
 まず、対応としては隔離が必要です。その後の対処としては、人畜共通感染症であること、また、他の収容個体の感染源となりうること、発見時にはかなり進行している場合が多く治癒が困難なことなどから、救護施設などでは安楽死が選択されることが殆どです。また、他の収容個体の糞便の抗酸菌染色などを行って、感染が広がっていないかの確認を行う必要もあるでしょう。
  治療する必要がある場合は以下の3薬剤すべてを最低8、9週間投与します。
・イソニアジド(isoniazid):30mg/kg SID PO.
・エサムブトール(ethambutol):30mg/kg SID PO.
・リファンピン(refampin):45mg/kg SID PO.
菌の排泄は停止しますが、体内には菌がどうしても残るので、鳥の免疫力低下と伴に再発する恐れが高く、完治は困難です。


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