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初期の処置と包帯法

First Aid: Medical Treatments & Bandages

  目次
  ☆脱水と補液について
   ☆鉄剤およびビタミン剤の投与について
   ☆猛禽に対するビタミンB複合体の毒性について
   ☆翼への8の字包帯法
   ☆ボディーラップ包帯法
   ☆骨内カテーテル

- 最終更新日:2006年5月6日 -


脱水と補液について

 外傷や衰弱などで保護された猛禽は、殆どの場合で軽い脱水(2〜3%)を起こしています。そのため、受け入れ時から補液を行って脱水の補正をすることが必要となります。収容後も餌を受け付けない場合などは、体の維持に必要な水分を補給しなければなりません。収容から1、2日経過して充分に食べるようであれば、もちろんその後の補液は必要なく、餌からの水分供給で充分です(但し、ストレス下にある場合、通常よりも多くの水分を必要とすることがあるので注意して下さい)。

脱水の程度の判別
 脱水の程度の判定ですが、哺乳類と同様に5%未満の脱水では外からは判別できません。以下の表を参考にして下さい。

脱水の程度 臨床上のサイン
5%未満 ・判別不能
5〜6% ・皮膚の弾力が僅かに失われる
7〜10% ・皮膚の弾力が明らかに失われる
・皮膚をつまむと元に戻りにくい(テント反応)
・眼の輝きと丸さがなくなる
・粘膜の乾燥が見られることがある
10〜12% ・つまんだ皮膚が元に戻らない
・足の鱗片(羽根のない鱗のようなものに覆われた部分)が土色になる
(通常、多くの種でこの部分は黄色っぽい)
・粘膜の乾燥
・翼/足の末端が冷たくなる
・沈鬱
・心拍数の上昇
12〜15% ・非常に沈鬱
・ショック
・危篤状態

 脱水のチェックのために皮膚をつまむ場合は、『ふしょ』(多くのワシタカ類で羽根がなく、鱗片で覆われてる足の部分)の後側(背側)がわかりやすくて良い場所です。

補液の量と経路
 脱水が見られ、かつ餌からの水分摂取が望めない場合には、以下の合計量の水分(ラクトリンゲル液など)を投与して脱水の補正と維持に必要な水分の供給を行います。維持に必要な水分は、猛禽全般で体重1kgあたり1日40〜60ml、平均して50mlと考えられています。

 ・脱水の補正に必要な量(ml/日):推定正常体重(g)× 脱水のパーセンテージ/100
 ・体の維持に必要な水分量(ml/日):推定正常体重(kg)× 50

 脱水が見られる場合は、その分だけ体重が低くなっている訳ですから、補正水分量などを計算する場合には、正常体重を推定して計算に用いることに注意して下さい。例えば、体重1050gで10%の脱水が見られる場合は、推定正常体重を1200gとする等です。  脱水が10%をこえるような場合は1日で脱水補正を完了することはせず、2、3日かけて行う方が良いでしょう。例えば推定正常体重1kgで10%の脱水(推定)の場合は、最初の1日で維持量50mlと補正量50mlの計100ml、2日目・3日目に維持量50mlと補正量25mlの計75mlを投与するなどです。投与は量や経路によって1日2〜4回程に分けて行います。

 投与経路ですが、急を要する時は静脈注射(翼下静脈など)で行います。鳥類で留置針の使用は困難なので、体温程度に温めたラクトリンゲル液を静脈内に1回量をまとめて注入します。注入の速さは、23〜25ゲージの注射針(ワシなどでは20ゲージ)で普通に注入する程度の速度で大丈夫です。但し、1度に大量の投与は避けて下さい。体重1kgあたり20〜25ml/回が目安です(但し、ワシなどの大型種では1羽につき60ml/回程度が上限)。
 軽度の脱水で緊急の処置を要さない時には、経口か皮下投与で充分です(この場合も、胃や皮下スペースの容量から、各経路とも20〜25ml/回が目安です)。皮下投与には左右の鼠蹊部を用いると良いでしょう。体躯と大腿部内側の間の皮膚にはかなりのたるみがあり、体重1kg程度の猛禽でも20〜25ml程度なら、左右に分ければ一度に注入できます。
 もし、一度にかなり沢山を投与したい場合は、静脈内と皮下などの2経路に分けて投与すると良いでしょう。

鉄剤およびビタミン剤の投与について

 受け入れ時の血液検査で貧血が見られた場合には、鉄剤の投与により短期間での改善が期待できます。Iron Dextranを10mg/kgの割合で1回だけ筋注します(筋注の場所としては胸筋が一般的です)。鳥の状態や餌の摂取状態にもよりますが、早ければ3日〜1週間程でヘマトクリット値のかなりの改善が見られます。
 鳥が衰弱している等で、食物の摂取や吸収が充分でない時にはビタミンB群を投与することもできます。1日当たり10mg/kgのビタミンB(チアミン)を、鳥が充分に栄養補給できるようになるまで(たいてい1〜3日程度)投与します。必要以上に長期に渡っての投与は避けます。経路としては筋肉内、静脈内および皮下が可能ですが、補液のラクトリンゲル液などに混合して皮下投与するのが最も鳥に負担がかかりません(投与する薬剤にもよりますが、胸筋への筋注は1回でも胸筋壊死を起こすことがありますので、避けられる場合には避けた方が良いでしょう)。

猛禽に対するビタミンB複合体の毒性について

 以前から、飼育フクロウ類にビタミンB複合体(B1, B2, B6, B12の混合)を餌などとともに経口投与した場合に、死亡する例が複数報告されています。詳細はわかっていませんが、フクロウ類だけでなくトビなどでも毒性が見られるようなので、ワシタカ類を含めた猛禽全般においてビタミンB複合体の経口投与は避けるのが賢明です。この毒性は、過剰投与ではない通常の処方用量の範囲内でも見られ、下痢などの消化管症状が見られたり、重症では死亡します。なお、静脈内投与や皮下投与ではこのような毒性は見られません。また、ビタミンB1およびB12を単独で経口投与した場合には、毒性は見られないようです。
 栄養補給のつもりで、簡単な気持ちでビタミンB複合体を餌とともに与えたことが、重大な結果を招くことになりかねません。ビタミンB群は水溶性で余剰は排泄されるため、脂溶性ビタミンのように過剰投与で体内蓄積して中毒を起こすことは通常考えにくく、獣医師でも知らなければ猛禽へ経口投与してしまう可能性が十分あります。毒性への感受性には種差や個体差があるようですが、1)ビタミンB複合体の投与経路は経口以外を選択する、2)どうしても経口投与するなら、ビタミンB1単独にするなど複合体の使用を避ける、などの対策が必要です。

8の字包帯法

 保護される猛禽には、骨折等の翼の外傷がかなりあります。ここでは、翼の固定によく用いられる8の字包帯法について紹介しておきます。骨折の部位や種類によっては、8の字包帯での固定のみで治癒することもありますが、多くの骨折ではピンによる固定等が必要となります。しかし、すぐに骨折の処置ができない等の場合、8の字包帯法で翼を固定しておくと、鳥が翼を動かして損傷を広げるなどするのを予防することもできます。但し、翼を体躯に固定しない限り、ここに示す方法のみでは肩関節は可動です。
 8の字包帯法は翼膜の前縁にある腱を横切る形になるので、長期固定では腱の萎縮や硬化の恐れもありますので、包帯交換等の際にマッサージやストレッチを行うことをお勧めします(「翼の受動的物理療法」を参照)。

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8の字包帯法1
肩羽(太い実線で囲まれた部分)を包帯に含んで、腋下ぎりぎりから巻き始める。

1. 鳥は伏臥位に保定すると、包帯を巻きやすいでしょう(慣れれば、仰臥位でもできます)。上腕骨についた「肩羽」(右図の太い実線で」囲まれた部分)も包帯に含むように注意します。
 ずり落ちるのを防ぐために、包帯(伸縮性のあるガーゼ包帯が巻きやすいでしょう)は腋下ぎりぎりから巻き始めるようにします。包帯を巻く方向は、翼上面では体躯から翼前縁、初列風切の方向(下図の矢印の方向)に向かうようにします。この方向が、翼の自然な折り畳まれ方に逆らいません。


8の字包帯法2
矢印の方向に巻くと、翼の自然な折畳まれ方に逆らわない。腋下で3〜4重に巻いて安定させる(上)。きつすぎると初列風切と次列風切が過度に交差してしまう(下)。

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2. 腋下で3〜4重に巻いて安定させますが、きつく巻きすぎないように注意して下さい。初列風切と次列風切が過度に交差していると、包帯がきつすぎる証拠です(但し、骨折等で骨の配列やカーブに異常がある場合は、適度に巻けていても風切が過度に交差することがあります)。包帯は翼の先の方まで巻く必要はありません。
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3. 次に翼下面で包帯を交差して、「8の字」を作ります。2〜3重に8の字を作って、手根部(翼を折り畳んだ時に、頭方へ出ている部分)を包むようにして安定させます。この場合も包帯を巻く方向は、先に示した理由で図中の矢印に従って下さい。


8の字包帯法3 8の字包帯法4
翼下面で包帯を交差して、「8の字」を作る。ここでも包帯を巻く方向は、翼の自然な折り畳まれ方に逆らわない方向へ(矢印)。 8の字を2、3重にして手根部を安定させる。

8の字包帯法5
最後にガーゼ包帯が全て隠れるように、相互粘着性包帯などで覆う。少しでもガーゼが見えていると、鳥が引っぱり出してしまうので注意。

4. 最後にガーゼ包帯が全て隠れるように、相互粘着性包帯等で巻いて仕上げます。この時の巻き方には、決まりはありません。もし、ガーゼが少しでも見えていると、鳥が引っぱり出してしまうことが多いので、注意してガーゼを全て覆うようにします。このままでは、肩関節は可動なので、次に示すボディーラップ法と組み合わせて翼を体躯に固定すると良いでしょう。


 

ボディーラップ包帯法

 ボディーラップ包帯法は、翼をテープ等で体躯に固定する方法です。8の字包帯に組み合わせて使われることも多いのですが、烏たく骨骨折の鳥をケージレストさせる場合などには単独で用いられます。強固ではありませんが、肩関節を固定することができます。

1. 鳥は仰臥位に保定します。テープに膝関節が引っ掛かってしまわないように、助手がいれば下図の様に脚を下方に引いてもらうと良いでしょう。
 使用するテープは、糊残りのない剥がしやすいテープ(3M社のDuraporeなど)を使用して、極力羽根を傷めないようにします。粘着力を調整するには、1度タオル等に貼ってから剥がし、使用するのも1つのアイデアです。
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2. テープは竜骨突起の中央を通るようにします。また、固定しない方の翼を折り畳み、位置を比べながら、正しい位置に固定します。きつく巻きすぎないように注意しながら、2重くらい巻きます。
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3. 最後に、翼と体躯の間に指を入れて、適切な余裕があるかを再確認しておきます。特に小型種できつくなりがちなので、忘れずにチェックします。


ボディーラップ法1 ボディーラップ法2
鳥を仰臥位に保定し、膝関節がテープに含まれないように脚は下方に引く。テープは竜谷突起の中央を通るようにする。もう一方の翼の位置と比較しながら、正しい位置に固定する。 2重ほどテープを巻くと良い。最後に適切な余裕があるか再チェックする。

骨内カテーテル

 鳥では皮膚が薄かったりするなどのために、一般の留置針の使用は容易ではありません。また、翼下静脈に留置針を固定しても、使用する度に鳥を仰臥位に保定して翼を広げなければならない等、鳥に対しての負担も大きくなります。
 ここでは留置針に代わるものとして、骨内カテーテルを紹介しておきます。飢餓等で非常に衰弱して保護された猛禽への、輸血や補液、栄養投与の経路として役立ちます。骨髄腔は洞様血管の分布が豊富なため、投与された物質の吸収が早いのが利点である一方で、容積が限られているので、1回投与量や投与スピードに制限があります。しかし、1度装着してしまえば繰返し利用でき(2、3日は利用可)、また尺骨に装着するので、鳥がしゃがんだままの楽な姿勢での投与が可能になります。鳥が非常に衰弱している等の場合には、麻酔なしでも充分装着が可能です。慣れれば5分程度で装着できます。

骨内カテーテルの挿入部位
骨内カテーテルの挿入部位(赤い部分)。尺骨遠位端に翼上面からアプローチする。R: とう骨、U: 尺骨。

使用する針
 使用する針は、中〜大型種で18〜22ゲージの脊髄液採取針(spinal needle)、小型種で22〜23ゲージの一般の注射針が目安です。但し、装着する鳥の尺骨の半分くらいの長さのものを使用して下さい。
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挿入部位
 尺骨遠位端(右図の赤い部分)。翼の上面からアプローチします。
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挿入方法
1. 手根部の羽根を抜いて、皮膚をよく消毒します。
2. 触診で尺骨の遠位端を探ります。尺骨を遠位に向かって進んでいくと、中手骨との境界が少しがくんと落ち込むように触ります。そこで少し中手骨を押し下げるようにすると、尺骨端の多少平らな部分が得られます。


正しく挿入された骨内カテーテル
正しく挿入された骨内カテーテル。針は尺骨の中央当たりまで届き、針の先端は骨皮質に触れていない。

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3.「きり」で穴をあけるように、針を回しながら骨皮質に穴を開けていきます。針が滑って、尺骨ととう骨の間の皮下に入れてしまわないように気を付けます。この時、針の進行方向が尺骨の縦軸に重なるように注意します。抵抗がなくなってぷすっと入った感じがすれば、骨髄腔に到達した証拠です。骨髄腔に入ったのち、再び針に抵抗を感じるようであれば、髄腔内で骨皮質に触っている証拠なので、角度を変えてみて下さい。
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4. 挿入できたら、針にヘパリン入りの滅菌生理的食塩水などを注入して、針に詰まった骨髄を取り除きます。注入できないようであれば、滅菌した細い外科用ワイヤー等で針の内部を掃除します(若い個体で骨髄量が多い場合には、抵抗が大きくて注入ができないことがあります)。
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5. きちんと挿入できたことが確認されたらキャップをつけて、カテーテルにテープを巻き付け、そのテープに縫い通した糸を風切羽の根元にかけるようにして固定します。この方法が、直接皮膚に縫い付けて固定するよりも鳥へのダメージが少なくてすみます。針の挿入部位には抗生物質入りの軟膏などを塗布して、ガーゼ等をあてがっておきます。
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6. 翼は8の字包帯とボディーラップ法で固定します。
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7. 骨髄腔への注入は、非常にゆっくり行います。速すぎると針の挿入部位からすぐにもれてきますので、注意して下さい。カテーテルの使用前後にはヘパリン入りの滅菌生食を少し注入し、針のつまりを防ぎます。


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